「一蓮院秀存 十大願」

「秀存語録」を読んでいたら、一蓮院秀存の立てた「十大願」というのが載っていた。
原文は漢文だけれど、自分で書き下してみた。
なかなか良い内容と思う。
試みに現代語訳もつくってみた。



「一蓮院秀存 十大願」

 
 一、願わくば、我れ、善知識の臣となり、豊葦原の群生を将いて西方に導かん。
 二、願わくば、我れ、講官の第一となり、高倉の不篤実の弊風を正し、僧儀を護らしめん。
 三、願わくば、我れ、高倉の学轍をして、香遠院己来、香月院に至るの古えに復せしめん。
 四、願わくば、我れ、自ら手の舞い足の踏むところ、心のうちの居るところ、専ら五悪五善を守らん。
 五、願わくば、我れ、自ら温良𥶡厚なるか、整正厳粛なるか、人を失わざるか、蔑を受けざるか、乃ち恭安なるかを省みん。
 六、願わくば、我れ、言色常に和やかに、和顔愛語にして、いやしくも語らず、常に舌にも及ばずの訓誡を忘れざらんことを。
 七、願わくば、我れ、我れを敵とする者をにくまず、善知識と為すを以て、わが身の罪を翻さん。
 八、願わくば、我れ、上を敬い下を慈しみ、以って尋常を超過せん。
 九、願わばく、我れ、称名怠らず、仏の恩の深きを思い、百行の本を忘れざらんことを。
 十、願わくば、我れ、飲食を節し、衣食の精を求めず、ただひとえにあらかじめ宝池蓮上の楽果を歓ばん。
 




「秀存 十大願」
 
 一、願わくば、私は、人々を良く導ける人となって、この国の人々を浄土に導くことができますように。
 二、願わくば、私は、学問を説き明かす第一人者となり、学校(高倉学寮)の不真面目な弊風を正し、学生の規律を守らすことができますように。
 三、願わくば、私は、学校(高倉学寮)の学風を、香遠院己来、香月院に至る昔の立派な伝統に戻すことができますように。
 四、願わくば、私は、自分の一挙手一投足、心のありかたや置き所を、よく気を付けて専ら五戒を守ることができますように。
 五、願わくば、私は、穏やかであたたかな広い心と、威儀正しく公平厳粛な態度を持ち、人をちゃんと育むことができているか、立派な人から軽蔑されるようなことをしていないか、穏やかな心と敬意を保ち続けられるかを日々に省みることができますように。
 六、願わくば、私は、言葉や表情が常に和やかで、和顔愛語を実践し、かりそめにも荒々しい言葉や間違ったことは語らず、常に不必要なことや誤ったことは言わないという訓誡を忘れることがありませんように。
 七、願わくば、私は、私に敵意をもって敵対してくる人を憎むことがなく、その人をかえって自分を良く導いてくれる人だと思い、そのことによって自分の身の罪をひるがえして良い方向に進むことができますように。
 八、願わくば、私は、年長者や目上の人を敬い、自分より年若い人や目下の人を慈しみ、そのことによって普通のありかたよりはるかに立派な生き方を実践することができますように。
 九、願わくば、私は、称名念仏を怠ることがなく、阿弥陀如来の御恩の深さを思い、このことこそがあらゆる行為の根本であるということを忘れることがありませんように。
 十、願わくば、私は、食事を節制し、ぜいたくな衣服や食事を求めず、ただひたすら浄土の宝の池の中の蓮の上で阿弥陀如来の御説法を聴くことができるということを、今から喜んでいくことができますように。