佐久良東雄 歌集 抜粋

佐久良東雄 歌集 抜粋


「富士の嶺(ね)の 高く貴き 雅なる 心を持ちて 人はあらなむ」

もののふの 尊きものは 剣太刀 磨ぎに磨ぎたる 心なりけり」

雪風に 魂(たま)を磨きて 梅と香り 桜とにほふ 心持たなむ」

「ことしげき 昨日のくれは 夢なれや はるにあけたる うみやまのいろ」

「雪霜の たへぬさむさを しのぎてぞ 清き香りの 梅の初花」

もののふも かくこそあらめ ひととせの 花にさきだつ 梅の初花」

「あひ見むと わが思ふいもは 春の野の すみれの花に 似てしありけり」

「人しらぬ この山里の さくらばな ともにあはれと 見る妹もがな」

「人知れぬ みたにがくれの さくら花 さきてはちりぬ あはれいくたび」

「さくらばな 咲き匂ふころの うれしさに 人の心も 花になりつつ」

「ことわざに 花は三吉野 人は武士 はなにはぢざる 心もたなむ」

「あすしらぬ この世とおもへば ちりかかる ゆふべの花の 惜しまるるかな」

「さと遠き 澤べのみづの 月かげに くひな鳴くなり あかつきのころ」

「せみのはの うすきたもとを 吹きかへし いなばをわたる 夏の夕風」

「いけみづの にごりにしまぬ 花蓮 人もかくこそ あらまほしけれ」

「さよふかみ 水のこころも すみぬるか うつれる月の 影のさやけさ」

「いくちたび ちりはてぬとも 紅葉の あかきこころぞ うれしかりける」

「君がため 朝しもふみて ゆく道は たふとくうれしく 悲しくありけり」

「なかなかに 花のわかばの こもりたる 冬の木末(こぬれ)は たのしかりけり」

「白妙の 真帆持ち張りて 浦船の 過ぎゆく見れば こころきよしも」

「よのなかは はかなきものと 知る時ぞ ひとのまことは あらはれにける」

「君がため 明日をも知らぬ もののふは 今日を楽しく 遊ぶべらなり」

「こころざす ことはかにかく 月花を ともにあはれと いふ妹もがな」

「かくしつつ うちかたらふも あはれなる いつかむかしに ならむと思へば」

「古の 健(たけ)く雄雄しく 風流(みやび)たる 意(こころ)を持てる 人ぞあらまし」

「いかにせば 神のこころに かなふやと 心にかくる 神主もなし」

「この山の さゆりの花の さやさやと さけるを見れば ともしかりけり」

「めもはるに ならむとぞする むらさきの こずゑにふれる けさのしらゆき」

「かかる時 せむすべなしと 黙(もだ)におる 人は活きたる 人とはいはじ」




「陳志歌」

死にかはり生きかはりつつ、天地のよりあひの極(きはみ)、現(あき)つ神わが大王に、ひたぶるにつかへまつらむ、事しあらばくなたぶれどもを、きりはふり命死なむと、村肝の心さだめて、剣太刀とぎてしあれば、月の夜も花のあしたも、あはれあはれ異にしありけり、これぞこれ神代のままの、人のまごころ