後宇多天皇「顕密の教法の心をよませ給いける長歌」

後宇多天皇「顕密の教法の心をよませ給いける長歌


くもりなき 心は空に 照らせども
われと隔つる 浮雲を 風のたよりに
さそい来て いつを始めと 闇(くら)きより
闇(くら)き道にも 迷ふらむ 
これを救はむ ためとてぞ
三世の仏は 出でにける
説きおく法は さまざまに
七の宗まで わかるれど
こころ一つを 種として
まことの道にぞ 尋ね入る
しかはあれども これはみな
鹿の園生の 風の音
吹きそめしより 鷲の峯
八年の秋を 迎へても
闇を照らせる 光にて
霧を厭わぬ つきならず
鶴の林の 煙より
八つのもも年 過ぎてこそ
まことの法は ひろめむと
説きけることは 末ついに
三の国々 伝え来て
わが大和にぞ とどまれる
あまねく照らす おおひるめ
本のくにとて まきばしら
造りもなさぬ ことわりの
かく顕われて やまどりの
おのれと長く 久しくぞ
国を守らむ かためにて
代々を重ねて たえせねば
えぶの身ながら このままに
悟りのくらい うごきなく
世を治むべき しるしとて
清きなぎさの 伊勢の海に
ひろへる玉を みかきもり
潮のみちひも 手にまかせ
吹く風降る雨 時しあらば
民のかまども にぎわいて
万世(よろずよ)経ぶき 葦原の
瑞穂の国ぞ 豊かなるべき


反歌

代々たえず 法のしるしを 伝えきて 普く照らす 日の本の国