平野国臣 歌集 抜粋

平野国臣 歌集 抜粋


「あだなりと 人は言うとも 山桜 散るこそ花の まことなりけれ」

浮雲の 晴れもやすると 大空を 仰ぎて待つも 久しかりけり」

「君が世の 安けかりせば かねてより 身は花守と なりけんものを」

「うずもれし 深山桜も 時を得て 花咲きぬべく ややなりにけり」

「海山に ひそみし龍も 時を得て 今は雲いを かけてこそ行け」

「菰(こも)着ても 網代に寝ても 大丈夫(ますらお)の 日本(やまと)魂 なに穢るべき」

「打ちとうて 砕かばくだけ 砕くとも 身にみがきえし 大和魂

「力あり 技ありとても 何かせむ 頼まんものは 心なりけり」

「わが胸の 燃ゆる思ひに くらぶれば 烟(けむり)はうすし 桜島山」

「よみがえり 消えかえりても 尽くさばや 七たび八たび 大和魂

「いく度か すてしいのちの 今日までも のこるは神の たすけなるらん」

「我が命 あらんかぎりは いつまでも なほ大君の ためにつくさん」

「やがて行く 道と思えば さしてまた さきだつ人を 嘆かざりけり」

「大丈夫(ますらお)の つくす誠の 大方は 百代の後ぞ 人に知られん」

もののふの つくす誠は 紅葉(もみじば)の 散りてののちの 錦なるらん」

「今もなほ 幼な心の うせもせず 星まつる夜と きけばゆかしき」


「消えのこる 雪かけ分けて たおやめの 春の若葉を 誰(た)がために摘む」

「さおとめが 立てる姿に ともすれば おもいまがうる 花あやめかな」

「去年(こぞ)の雪 わずかにのこる 春日野に もえ出づる若菜や いざや摘みてん」

「霜きえて 今朝ふる雨に 根を潤う のべの若草 色つきにけり」

「つゆ霜や ゆきをしのぎて 初春に おくれぬ梅の はなとこそ咲け」

「このたびは わきて身にしむ 心地せり まだ春さむき 淀の川風」

「とらわれと 身はなりぬれど 天地(あめつち)に 恥じる心は 露なかりけり」

「あしたづの 翼ちぢめて 籠にあれど 雲井を恋はぬ 日はなかりけり」

「ささやけき まがりの水に さす花の わずかに春の しるしをぞみる」

「砕けても 玉とちる身は いさぎよし 瓦とともに 世にあらんより」

「折ふしに 心ののりと なるものは 君が教えし 千々の言の葉」

「君安く 国さかえよと 朝夕に いのる心は 神ぞ知るらん」

「我が魂は 但馬の国の 神となり 大きみおもう 人をたすけん」

「埋もれて 月日ふる井に 住む水の そこの心を くむ人もがな」

「いくの山 木枯らしもまだ 誘わぬに あたら紅葉の ちりぢりにして」

「春ならで 先ず咲く梅の 一えだの 深き色香を 知る人ぞ知る」


【辞世の漢詩

憂国十年  国を憂いて十年 
東走西馳  東に走り西に馳す 
成敗在天  成敗は天に在り 
魂魄帰地  魂魄は地に帰す」

(世の中を憂いて はや十年以上の月日が経った。
この間、東奔西走してきた。
成功するのも失敗するのも、運命は天の御心にある。
死んだ後は私の魂は故郷の地に帰ろう。」