「予、暇日 郭青山集を閲す、天地有りて衾と為し月を枕と為すの句、弄吟数回、意甚だ之を愛す、因りて自ら枕月居士と號す、之を賦して以って志を述ぶ」
沽酒休沽澹泊酒 酒を沽(あきな)はば沽(う)る休(なか)れ澹泊(たんぱく)の酒
擇友須擇澹泊友 友を擇(えら)ばば 須(すべから)く 澹泊の友を擇ぶべし
欲行則行止則止 行かんと欲すれば則(すなわ)ち行き 止まらんとすれば則ち止まる
物之羈絆豈肯受 物の羈絆(きはん) 豈(あに) 肯(あへ)て受けんや
吹我簫兮弾我琴 我が簫(しょう)を吹き 我が琴を弾ず
清音洗耳兼洗心 清音 耳を洗ひ 兼ねて 心を洗ふ
看来迷道尚未遠 看(み)来(きた)れば 道に迷ふ 尚(なほ) 未だ遠からず
欲囘其車須及今 その車 囘(かへ)さんと欲すれば 須(しばら)く今に及ぶべし
鳳兮之歌我最愛 鳳兮(ほうや)の歌 我れ最も愛す
是非安足容我喙 是非 安(いづくん)ぞ 我が喙(くちばし)を容るるに足らんや
把月為枕雲為衾 月を把(と)つて枕と為し 雲を衾(ふすま)と為す
悠然好臥紅塵外 悠然 好(よ)し 紅塵の外に臥せん
(大意)
酒を売るならば、淡白な酒は売ってはいけない。
強く濃い酒を売るべきだろう。
けれども、友を選ぶ時は、あんまりくどくない、淡白な友を選ぶべきだ。
行きたいと思った時は行き、やめたいと思ったときはやめる。
何らかの縛りや拘束は、決してお互いに受けたくないものだ。
(淡々と、お互いの自由を尊重し合う仲が良い)
笛を吹き、琴を弾いて、
その清らかな音色に、この耳を洗い、心も洗う。
辿り来て振り返ってみれば、私は人生という道に踏み迷ったのかもしれない。
でも、まだそんなに深く迷ったというわけではないだろう。
引き返そうと思えば、今からでも十分引き返せるはずだ。
論語の中に出てくる、狂接輿が歌った「鳳兮の歌」、つまり乱世にあっては恬淡と身を隠して風雅に生きることを勧める歌は、私の最も愛する歌。
この時代の正しいあり方というものに、私がくちばしを挟んでどうにもなるものでない以上、黙って鳳兮の歌のような生き方をするしかあるまい。
空にかかるこの月を手にとって私の枕にし、雲を布団にして寝よう。
悠々自適、悠然と、世俗の塵を離れて暮らすのも、いいではないか。