増支部経典 第七集 六十 怒りの副作用七つ

支部経典 第七集 六十


一、比丘衆よ、敵に対して望ましき、敵に対して作すこれらの七法は瞋れる女人あるいは男子に来る、何をか七とす。
二、比丘衆よ、ここに敵が敵に対してかくの如く望む、ああこれは醜かれ、と、そは何の因なるや、比丘衆よ、敵は敵の美しきを喜ばざるなり、比丘衆よ、この瞋れる男子補特伽羅は瞋恚に打勝たれ、瞋恚に著してあり、彼はよく洗浴し、よく塗油せられ、鬚髪を刈り、白衣を著したりといえども、しかも彼は瞋恚に打勝たれて醜し、比丘衆よ、これが敵に対して望ましき、敵に対して作す第一の法の瞋れる女人あるいは男子に来れるなり。
三、比丘衆よ、また敵は敵に対してかくの如く望む、ああ彼は苦しみて眠るべし、と、そは何の因なるや、比丘衆よ、敵は敵の楽眠を喜ばざるなり、比丘衆よ、この瞋れる男子補特伽羅は瞋恚に打勝たれ、瞋恚に著してあり、彼は毛深き黒毛氈を敷き、白き羊毛布を敷き、花模様ある羊毛布を敷き、カダリ鹿の最勝毛布を敷き、上に覆帳を具え、両辺に丹枕ある寝台の上に坐すとも、しかも彼は瞋恚に打勝たれて苦しみて眠るべし、比丘衆よ、これが敵に対して望ましき、敵に対して作す第二の法の瞋れる女人あるいは男子に来れるなり。
四、比丘衆よ、また敵は敵に対してかくの如く望む、ああ彼は義利豊富なるなかれ、と、そは何の因なるや、比丘衆よ、敵は敵の義利豊富なるを喜ばざるなり、比丘衆よ、瞋れる、瞋恚に打勝たれ、瞋恚に著したる男子補特伽羅は、不利益を受け已りて、我は利益を受けたり、と思惟す、利益を受け已りて、我は不利益を受けたり、と思惟す、かの瞋恚に打勝たれたる者には、これらの法は互いに相違して解せられ、長き間不利と苦を与う、比丘衆よ、これが敵に対して望ましき、敵に対して作す第三の法の瞋れる女人あるいは男子に来れるなり。
五、比丘衆よ、また敵は敵に対してかくの如く望む、ああ彼は豊者なるなかれ、と、そは何の因なるや、比丘衆よ、敵は敵の豊者なるを喜ばざるなり、比丘衆よ、瞋れる、瞋恚に打勝たれ、瞋恚に著したる男子補特伽羅の、すべて彼の精進を起して得られたる、臂力をもって集められたる、額に汗して儲けたる、如法に、正しく得られたるところの富も瞋恚に打勝たれたる者のは、諸王は王庫に入れしむ、比丘衆よ、これが敵に対して望ましき、敵に対して作す第四の法の瞋れる女人あるいは男子に来れるなり。
六、比丘衆よ、また敵は敵に対してかくの如く望む、ああ彼は名声ある者なるなかれ、と、そは何の因なるや、比丘衆よ、敵は敵の名声あることを喜ばざるなり、比丘衆よ、瞋れる、瞋恚に打勝たれ、瞋恚に著したる男子補特伽羅は、彼の不放逸によりて得られたるその名声より、瞋恚に打勝たれたる者は墜堕す、比丘衆よ、これが敵に対して望ましき、敵に対して作す第五の法の瞋れる女人あるいは男子に来れるなり。
七、比丘衆よ、また敵は敵に対してかくの如く望む、ああ彼は友を持てる者なるなかれ、と、そは何の因なるや、比丘衆よ、敵は敵の友を持てるを喜ばざるなり、比丘衆よ、瞋れる、瞋恚に打勝たれ、瞋恚に著したる男子補特伽羅を、すべて彼の友人同僚、親戚、血族は、瞋恚に打勝たれたる者を離れて避く、比丘衆よ、これが敵に対して望ましき、敵に対して作す第六の法の瞋れる女人あるいは男子に来れるなり。
八、比丘衆よ、また敵は敵に対してかくの如く望む、ああ彼は身壊して死せる後に悪処、悪趣、険難、地獄に生ずべし、と、そは何の因なるや、比丘衆よ、敵は敵の善趣に行くを喜ばざるなり、比丘衆よ、瞋れる、瞋恚に打勝たれ、瞋恚に著したる男子補特伽羅は、身を以て悪行を行じ、語を以て悪行を行じ、意を以て悪行を行ず、彼は身を以て悪行を行じ已りて、語を以て悪行を行じ已りて、意を以て悪行を行じ已りて、瞋恚に打勝たれて身壊して死せる後に悪処、悪趣、険難、地獄に生ず、比丘衆よ、これが敵に対して望ましき、敵に対して作す第七の法の瞋れる女人あるいは男子に来れるなり。
比丘衆よ、敵に対して望ましき敵に対して作すこれらの七法が、瞋れる女人あるいは男子に来るなり、と。



瞋れる者は醜し          しかして彼は苦しみて眠る
また利益を取り已りて       不利益を得、
瞋れる者はそれより身と語にて   破壊をなし已りて
瞋恚に打勝たれたる男子は     財の亡失を受く
瞋恚の酔に酔いたる者は      不名誉を受く、
親戚友人と同僚は         瞋れる者を避く。
瞋恚は不利益を生じ        瞋恚は心を動揺せしむ
内より怖畏は生じ         そを人は悟らず、
瞋恚は利益を生ぜず、       瞋恚は法を見ることなし、
瞋恚が人を征する時        そのとき彼は闇冥なり、
容易なるも困難なるをも      瞋恚は破壊するが故に
彼は後に瞋恚を離れたる時     火に焼き尽くされたる如くに苦しむ
瞋恚の発して           彼に弟子が叱責せらるる時に
火が煙非を示す如くに       彼は不愉快なる顔貌を初に示す。
彼には慚なく愧なく        あるいはまた恭敬なく
瞋恚に打勝たれたる者には     決して休息所はあることなし。
諸法より離れたる         痛惜すべき諸業を
われ語るべし、          そを語のままに聞け、
瞋恚は父を殺し、         瞋恚は母を殺し
瞋恚は婆羅門を殺し        瞋恚は凡夫を殺す
母に養育せられて         この世に出でしなり、
その生命を与うる(母)をも    瞋れる凡夫は殺す、
彼等衆生は我に等し        己を最もいとしとす、
瞋れば種々の色において本心を失い 各々の我を殺す
剣を以て自らを殺し        愚痴なる者等は毒を食す
縄にて縛し、           また山より洞の中に(落ちて)死す
他を殺し自らを死せしむる     業をなしつつも
悟ることなくして         瞋を生ぜる者は亡ぶ
それよりこの、瞋恚の類により   死魔に捕われ、心覆われたる者は、
そを調御により慧精進により    また見によりて断つべし。
賢者は一々            不善を断ぜよ、
また法において学すべし、     嫌悪することなかれ
瞋を離れ、悩なくて        貪を離れ、嫉無くて
調御せる者は瞋恚を断ちて     無漏にして般涅槃す、と。