メモ 「観世音菩薩 遅滞のない大悲の門 華厳経」

「観世音菩薩 遅滞のない大悲の門 華厳経



「善男子よ、私は遅滞のない大悲の門という菩薩行の門を知っている。
善男子よ、この遅滞のない大悲の門という菩薩行の門は、すべての世(界)を分け隔てずに衆生の成熟と教化に向かい、普門から聞き、知らせることによって衆生の摂取と教化に役立つものである。
だから、善男子よ、私は遅滞のない大悲の門という菩薩行の門に立っているので、すべての如来の足下から動かずに、すべての衆生のためになすべきことに直面してもいる。
(即ち)布施によって衆生を摂取し、愛語、利益をもたらす行為、(衆生と共に)同じ仕事をする同事によって衆生を摂取し、色身を示現することによっても衆生を成熟さ、不可思議で清浄な色、形、姿の示現により、(さらに)光網の放射によっても衆生を喜ばせ、成熟させ、(衆生たちの)願っている通りの声を出し、各々に快い威儀を現わし、多様な深信(の各々)に合った教えを説き、種々の神通と神変(を演じ)、善法を積むことを怠る衆生の心を奮い立たせ、願いに適った多様で無量の変化(身)を示現し、種々の階級(ジャーティ)に生まれた衆生と同じ姿を現し、同じ住処に住むことによっても衆生を摂取し、成熟させる。
善男子よ、だから遅滞のない大悲の門というこの菩薩行の門を清浄にする私は、すべての衆生の庇護者になる誓願を起している。


即ち、


一、 すべての衆生の(奈落への)転落の恐怖を払い、
二、 すべての衆生の恐怖の的に対する恐怖を鎮め、
三、 すべての衆生の愚痴の恐怖をなくし、
四、 すべての衆生の束縛の恐怖を根絶し、
五、 生命の危機の接近に対するあらゆる衆生の恐怖を除き、
六、 あらゆる衆生が生活の資具の欠乏を恐れる恐怖を除き、
七、 あらゆる衆生の生計の手段に由来する恐怖を鎮静し、
八、 あらゆる衆生の悪評の恐怖を一掃し、
九、 あらゆる衆生の輪廻の恐怖を和らげ、
十、 あらゆる衆生が集会の中で物怖じする怖畏(怯衆畏)をなくし、
十一、 あらゆる衆生の死の恐怖を除去し、
十二、 あらゆる衆生の悪しき境遇の恐怖をなくし、
十三、 あらゆる衆生が引き返すことのできない闇黒で危険な道に光明をもたらし、
十四、 あらゆる衆生の、気に染まぬものとめぐり会うこと(怨会)の恐怖を完全に追い払い、
十五、 あらゆる衆生の、好ましいものとの別離(愛別)の恐怖を滅し、
十六、 あらゆる衆生の厭わしいものとの共生の恐怖を除き、
十七、 あらゆる衆生を身体の苦痛の恐怖から解放し、
十八、 あらゆる衆生を心の苦悩の恐怖から自由にし、
十九、 あらゆる衆生の苦しみ、憂悩、煩悩を一掃するために、(私は)あらゆる世の衆生の庇護の場所となろうという誓願を成就した。


(梶山雄一監修 『さとりへの遍歴 華厳経入法界品』上巻 (中央公論社) 三百四十七頁)