心配なのはデフレよりもインフレ

コーヒー、砂糖、卵、ガソリン… 値上げラッシュで“生活パニック”
http://news.livedoor.com/article/detail/5304487/


この数年、日本においてはデフレへの批判や心配の論調が多く、インフレ・ターゲットを掲げてデフレ脱却をすべきだと主張している論者も多かった。

そんな中、野口悠紀雄さんは、今の日本で問題なのはデフレではないということをはっきり指摘し、むしろ将来的には原油価格や食料品の値上げなどインフレが心配だと述べていたけれど、見事にその予測が当たったということだろう。

野口悠紀雄『日本を破滅から救うための経済学』
http://www.amazon.co.jp/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%82%92%E7%A0%B4%E6%BB%85%E3%81%8B%E3%82%89%E6%95%91%E3%81%86%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE%E7%B5%8C%E6%B8%88%E5%AD%A6-%E9%87%8E%E5%8F%A3-%E6%82%A0%E7%B4%80%E9%9B%84/dp/4478014078/ref=ntt_at_ep_dpi_4

とても良い本なので、多くの人に読んで欲しい。

今の日本の状況は、結局のところ、野口さんが指摘する通り、

・要素価格均等化が強く働く条件下では、食品やガソリンが値上がりしても、給料は増えない。
・製造業等の製品価格は相変わらず安い価格での競争を中国と強いられるため、賃金を上げることができない。

ということだと思う。
今まで、デフレ的な物価安のおかげで、賃金が低くてもなんとかなっていた庶民の暮らしは、これから相当に苦しめられることになるだろう。

処方箋としては、野口さんがかねてから主張しているように、産業構造の転換を強力に推し進めるしかないと思う。

菅さんが掲げている「平成の開国」、つまりTPPやEPAは、全体的な方向としては私はいいと思うけれど、それだけでは十分な日本の活力の回復や強化にはならないと思う。
産業構造の転換を強力に推し進め、それと両輪にしてこそ、平成の開国も意味があると思う。

TPPあるいはEPAによって、もし安いコメが入ってくれば、10キロ800円ぐらいで消費者が買えるようになるので、物価高になっても、庶民の暮らしはかなり助かるかもしれない。

また、円高は当分続くだろうから、海外の資源や輸入品の値上がりを、いくばくか円高が緩和してくれるかもしれない。

ただ、農業自由化についても、円高についても、それぞれの方面からかなり強力な圧力がかかるので、菅さんもよほどな信念とタフさがないと、結局中途半端な腰砕けの政治しかできず、庶民は安い賃金・高い物価の状況の中で、平成の開国も進まず、円高の利益も享受できず、という状態に落ち込むかもしれない。

また、究極的には、従来のような重厚長大型の製造業では、もはや日本は中国とは戦えず、中国とぶつからない産業構造に転換しないと、賃金低下は止まらないということも、政府やマスコミははっきり指摘し国民に説明すべきと思う。

これから先、日本は非常に難しい舵取りを迫られると思うが、

大切なことは、

・問題はデフレではなくインフレの危険にある。
・産業構造を転換しない限り、賃金低下の抜本的な解決はない。
・貿易自由化が進まないと、結局一番割を食うのは一般消費者である。
円高は決して止まらず、かえって今以上に進むだろうから、円高を止めようとするより、円高の恩恵を最大限生かすようにすること。

などの、今までの常識とは違う発想が必要なんじゃなかろうか。

TPPやEPAも、一般的に言われるような製造業の利益というよりは(短期的にはそうもなるだろうが)、安価にさまざまな商品が買えるようになるという点で、一般消費者にとっての利益だという側面をもっとマスコミや政府も言う必要があると思う。

製造業については、長期的には、もはや日本においては無理で、中国とぶつからない高次の産業にシフトすることを真剣に考えるべきだろう。

一応、菅さんは北欧の積極的雇用政策を見習うと新成長戦略で述べ、求職者支援制度の拡充なども行ってきているけれど、さらにその点についてもっと力を入れる必要があろう。

いいかげん、低レベルな政争や政局でもめている場合ではなく、産業構造の転換や自由貿易が日本の庶民の暮らしにとって死活的な重要性を持つ状況にますます突入しつつあることを、政府も国民もよく理解した方がいいと思う。