野口悠紀雄・幸田真音 「日本人が知らない日本経済の大問題」 

日本人が知らない日本経済の大問題

日本人が知らない日本経済の大問題


対談形式なのでとてもわかりやすく、さらっと読める形で面白かった。


水平分業が進んだ二十一世紀型の国際分業は、マーケットがつないでいるので、マーケットと英語力が決定的に重要であること。
そして、そのことに、1940年体制の惰性やメンタリティが未だに強い日本人は非常に鈍感であること。


そうしたことがわかりやすく、鮮烈に提起されている。


また、他の本でも繰り返し野口さんが指摘していることだが、「金利のしっぺ返し」、つまりこのままだといつか円安とインフレと金利上昇が起こり、国債の暴落が生じて、大変な事態が生じる危険があるということと、このままだと2033年には年金制度が破綻するという話は、あらためて深く考えさせられた。


考えてみれば、菅総理と与謝野さんは、そうした事態を防ぐために税と社会保障の改革を進めようとしたが、猛烈な菅降ろしにあって志半ばで退陣せざるを得ない状態となった。


菅降ろしに狂奔していた人々は、年金制度や国債について、この先どうするつもりなのか、本当に疑問になる。


また、小泉政権期の人為的な円安が円キャリーを活発化させ、そのことがサブプライムローン問題につながったのではないか、つまり世界金融危機は日本に一つの原因があったのではないか、ということを、「誤差脱漏」や「タックスヘイブン」の問題と絡めて論じていることは非常に興味深かった。


また、エコカー・エコポイント・雇用調整助成金が、結局のところ産業構造の転換を妨げ、税金の無駄になっているという指摘も興味深かった。


時折、行き過ぎた市場原理主義への反対だとか新自由主義反対だと声高に述べている人がいる。
それはそれで部分的には一理はある部分もあるかもしれない。
しかし、日本の経営者のメンタリティは基本的に1940年体制で培われたもので、マーケットやグローバル経済に疎いことが日本の今の停滞を招いていることが、野口さんの本を読むと明瞭にわかる。


マーケットを否定する考えがいまだに根強い日本の体質を変えることの方が、空疎な新自由主義批判よりは本当は大切なことかもしれない。


担税力を持つ企業や個々人をしっかり生み出していくために、教育の重要性を野口さんは力説しているが、本当に共感させられる。


英語アレルギーを克服し、40年体制のメンタリティを払拭し、英語力とマーケットへの敏感さや理解を持つようにならないと、二十一世紀の日本はじり貧である。
その認識の出発点に至るためにも、多くの人に読んで欲しい一冊である。


なお、この本は東日本大震災の前に出版されている本だが、1940年体制の権化として電力会社のことが言及されている。
本当に、1940年体制をどうにか払拭しないと、電力利権・原発問題も少しも解決しない。
もっと早くからその改革をしておけばと、本当に思われてならない。