盤珪禅師「うすひき歌」
不生不滅のこの心なれば 地水火風はかりの宿
生まれ来たりしいにしえ問えば 何も思わぬこの心
来たる如くに心を持てば じきにこの身が生如来(いきにょらい)
よきもあしきも思いしことは おのがこの身のある故ぞ
冬の頃しも喜ぶたき火 夏の来るほどあらいやや
夏の頃しも恋しき風も 秋のはてぬに早にくむ
金を持ったりゃ貧者がいやし 持たぬ昔を忘れたか
鬼の心で集めた金を がきに取られて目がもうた
金がほしさに命を捨てて すてて見たれば金いらず
惜しやほしやと思わぬ故に 今は世界が我が物じゃ
恋しゆかしもただ今ばかり 会わぬ昔が有る故に
思い出すは忘れぬ故に 思い出さねば忘れぬよ
昔思えば夕べの夢じゃ とかく思うは皆うそじゃ
夢と思えば浮世の中に らくもつらきも無き物を
つらき浮世とうらむる人は 夢に心を苦しむる
とかく浮世はもと無いものじゃ 心とめよりただうたえ
過去も未来も本心ばかり 心とめより思い切りやれ
心とめずば浮世はあらじ 何も無きこそ生如来
我と作りし心の鬼が 責めて苦しむ身のとがを
悪をつくれば心が鬼じゃ 外に地獄は無きものを
地獄ぎらいの極楽ずきで 楽な世界に苦をうけた
悪をきらうを善じゃと思う きらう心が悪じゃもの
善をしたこと善じゃとうじゃる うじゃる心が悪じゃわい
善きも悪しきも一つにまるめ 紙につつんで捨てておけ
奇妙不思議は一つも無いぞ 知らにゃ世界が皆不思議
うその世界をまことのように ばかしばかさる化け物じゃ
いつか五欲を身にならわして それに習うて日を暮らす
人におしえはもと無いものじゃ 是非を争う我が身なり
仏道修行をつとめし後は 何もかわりは得ぬものを
迷い悟りはもと無いものじゃ 親も教えぬならいもの
さとる心は我じゃと思え 念と念とが相撲とる
さとろさとろとこの頃せねば 朝のねざめも気が軽い
後世を願うとひいきを願う いとど我慢をそえかけて
後世づとめもこの頃いやと 出入りの息のありしだい
死んで世界によるひる暮らせ それで世界が手に入るぞ
仏様こそおいとしござる そとの飾りがまばゆかろ
内の仏にゃそりゃまだ早い 門の仁王にまずなりやれ
われと浄土をたずねて見たら けっく仏にきらわれた
人にかたきはもと無いものじゃ 是非をあらそう我がなる
因果歴然わがなすことを 知らで迷うは身のひいき
有為の転変身にならわして それに迷うは己が損よ
無為の心はもとより不生 有為が無き故迷い無し
うれしめでたや老いせぬ君に 尋ね会うたりや我ひとり
安く養う浄土はここよ 五万五万の億も無し
人が茶碗をからりと投げば 我は機用の錦で受けよ