藪野祐三『有権者って誰?』を読んで

 

若者向けにわかりやすく書かれた岩波ジュニア新書の本で、面白かった。

 

本書は、有権者をいくつのか種類に分け、通常あまり選挙に行かない「消費者としての有権者」や惰性で投票行動を行う「常連としての有権者」と、市民性を持って公平な視点から投票に臨む「市民としての有権者」に区分する。

 

そのうえで、特定政党の支持者以外の人々が、55年体制下の投票率や政治的関心が比較的高かった浮動票層から、90年代以降はそれらが低い無党派層に変化したことや、

近年の国政選挙の傾向として、自公支持40%前後、野党支持10~18%、支持政党なしが40%前後であること、

かつて70年代までは大学生が15%でその後現在は50%になったものの、イングルハートの『静かなる革命』が予想したような大学進学者の増加が市民性に富んだ人の数を増やすという予測が外れ、居住地の流動化や利益団体からはぐれた個人化の進行やコンビニ化などの諸般の事情によって、市民性が豊かに育つどころか市民性が育ちにくい社会に現代日本がなっていること、等々が指摘されている。

 

慣性の法則を踏まえて、何もなければ「消費者としての有権者」がそのまま続くとして、ではどうすれば「市民としての有権者」となるのか。

過去の消費税をめぐる選挙の事例や、憲法改正問題などに言及しつつ、日ごろから豊かな市民性を育むための地域参加などについて、本書では若干示唆的に最後にその問題についても論じられている。

 

投票に行くべきだと論じる前に、まずは有権者にもいくつかの種類があることや、戦後の有権者の投票行動の変遷や、現在の有権者の置かれている状況を、きちんと整理し認識する必要は、確かにあると思われるし、そうした問題の整理のためには、若者のみならず大人にとっても本書は有益と思う。

「個人化」が進行した無党派層の支持をいかに獲得するかということは、どの政党にとっても今後ますます重要になるのだろうけれど、それは極めて難しいことなのかもしれない。

簡単な解決方法は存在せず、地道に市民性を豊かにしていくような取り組みを各自ができるところで行っていくことしか、日本の政治を少しでもマシなものにしていく方法もないのだろうと、本書を読みながらあらためて思った。

 

 

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