絵本 「国境を越えて」

国境を越えて―戦禍を生きのびたユダヤ人家族の物語

国境を越えて―戦禍を生きのびたユダヤ人家族の物語


リトアニアのメーメルというバルト海に面した港町に住む、カプランさんという夫婦と息子・娘の四人家族は、裕福に平和に暮らしていたら、1939年、ナチスドイツの侵攻を前に、祖父母が住んでいるカナダまで逃げていくことを決意する。


しかし、リトアニアからソビエト・日本を経由していくためのビザは簡単には手に入らない。


一縷の望みを託して、リトアニアにある日本領事館に行くと、何百人という人がすでに列に並んでいた。


その時、黒塗りの車がちょうど領事館から出ていくところだった。


カプランさんのお父さんは、ちょうど目の前にゆっくり来たその車の窓を叩き、必死にビザを頼むと、ちょうど本国の命令で領事館を出ることを命じられている杉原千畝の一家で、カプランさん一家のためのビザを書いてくれた。


しかし、ソビエト国籍であるカプランさんのお母さんの分のビザはそこではもらえず、ソビエト大使館で再三頼み、やっと発行してもらい、ぎりぎりでシベリアを越えていく鉄道に乗り込む。


途中、悪い車掌に荷物をだましとられたり、鉄道の旅の途中で仲良くなったユダヤ人の家族が、書類の不備で逮捕されたりといった大変な思いをする。
日本に渡るために、出国許可証をもらうために有り金をはたいて役所にわいろを贈って、やっとソビエトからの出国が認められる。


日本では、ユダヤ人の援助をするキリスト教の団体もあったそうで、束の間骨を休めて、また長い船の旅となり、ついにカナダに到着し、再び長く鉄道に揺られて、ついにおじいちゃんおばあちゃんが住んでいる町にたどり着き、苦労しながらも新生活を始める、というところで物語は終わる。


この絵本の作者は、このカプランさんの息子さんの息子さん、つまりお父さんから見れば孫にあたる人だそうだ。


実体験が元になっているだけに、とても読み応えのある絵本だった。
平和に暮らしていた一家が、これほど大変な思いをして、地球の半分ぐらいの長い距離を旅して逃げなくてはならないとは、なんということだろうと思う。
と同時に、この時にユダヤ人たちに手をさしのべた、杉原千畝や神戸の人々は、本当に立派だと、同じ日本人としてうれしい気がした。
だが、杉原千畝は本国の命令に背いたということで、外務省をやめさせられ、名誉が回復されたのはずっとのちのことだったそうだし、神戸のユダヤ人を援助していた団体は、あとで弾圧を受けて解散させられたらしい。


あの時代、多くのユダヤ人が、ナチスの手によって殺された。
中には、このカプランさんの一家のように、幸運にも生き残ることができた人々もいたが、それらの人々も本当に大変だったことだろう。


私たちは、それらの歴史を忘れず、何かの機会があれば、もっと多くの杉原千畝のような人が現れるような国や社会でありたいと、あらためて思った。