最近、たまたまハナン・ヨベルというイスラエルの歌手の歌をyoutubeで聴いて、深く感動した。
この歌は何だろうと思って調べてみたら、聖書の中の「詩編」の第126篇に曲をつけて歌ったものだそうである。
歌詞の響きも、曲も本当に深く胸を打つものがある。
ある方が教えてくださったのだけれど、ユダヤ人は、金曜日の日没から始まる安息日の礼拝の後、安息日の晩餐を食べてから、食後の祈りを唱えるそうで、その時、この126篇を節をつけて歌うそうである。
そのため、全世界中のユダヤ人の多くは、この詩篇をヘブライ語の音で丸暗記しているそうだ。
それだけ長い歴史の中でユダヤ人の深い祈りがこめられてきた歌ということなのだろう。
では、具体的にその歌詞はどのような意味かというと、以下のような意味らしい。
(新共同訳による)
「詩編 第百二十六篇」
(都に上る歌。)
主がシオンの捕われ人を連れ帰られると聞いて
わたしたちは夢を見ている人のようになった。
そのときには、わたしたちの口に笑いが
舌に喜びの歌が満ちるであろう。
そのときには、国々も言うであろう
「主はこの人々に、大きな業を成し遂げられた」と。
主よ、わたしたちのために
大きな業を成し遂げてください。
わたしたちは喜び祝うでしょう。
主よ、ネゲブに川の流れを導くかのように
わたしたちの捕われ人を連れ帰ってください。
涙と共に種を蒔く人は
喜びの歌と共に刈り入れる。
種の袋を背負い、泣きながら出て行った人は
束ねた穂を背負い
喜びの歌をうたいながら帰ってくる。
(引用以上)
この歌は、バビロン捕囚、つまりバビロニアにユダヤ王国が滅ぼされ、多くの民が捕虜として連れられた後、七十年の後にペルシア帝国のキュロスから帰還許可が出て、故国に帰還した人々が歌った歌だそうだ。
釈放された人々は、はじめは夢であるかのように嬉しく、喜び勇んで故郷に帰ったものの、直面する現実は厳しかった。
荒廃した、荒れ果てた土地で、貧しさと苦しみの中で人々は生きていかなければならなかった。
そういった事情の中で、この歌はつくられたそうである。
ネゲブというのは、イスラエル南部の砂漠地帯のこと。
荒れ果てた土地で、再び田畑を耕し、復興する人々が、涙とともに希望を歌った歌なのだろう。
日本も、敗戦の後は多くの人が大陸から引き揚げてきた。
私の母方の祖父母も、戦前は北京で暮していた。
敗戦によって何もかも失い、身一つで引き揚げてきたそうである。
敗戦の直後のしばらくの間は、本当に大変だったそうだ。
しかし、またその後、祖父は何人かの友人と事業を立ち上げて成功したそうである。
日本全体もまた、敗戦の焦土の中から、短期間で奇跡の復興を果たした。
過ぎ去ってみれば、また当時を知らないその後に生れた私たちの世代は、とかくその苦労を忘れがちだけれど、当時は本当に大変で、とても復興ができるとは思えない希望の見えない時も時にはあったことだろう。
その中で、「種を蒔き続けた」人々がいたからこそ、廃墟と焦土から、日本は再び立ち直ったのだと思う。
そう思うと、この歌は、ユダヤ人の歌というだけでなく、私たちにとってもとても共感させられる。
いわば私たち自身の歌でもありえるのかもしれない。
「涙と共に種を蒔く人は
喜びの歌と共に刈り入れる。」
この一節は、とても印象的だと思う。
今は涙であっても、良い種を蒔き続ければ、必ずいつか喜びとともにその種から育った多くの収穫を得る時がある。
三一一の時は、当時の菅首相が述べたように、敗戦後で最も厳しい状況に日本は直面した。
いま、安倍さんが首相になってだいぶ景気は上向きになってきたようだが、今もって多くの人がさまざまな形で困窮したり、苦しんでいる。
今どのような種を蒔くのか。
将来喜びの歌とともに刈り入れることができるような、良い種をいっぱい一生懸命蒔き続けることが、私たちができる最大のことなのだとこの歌を聴いていると思われる。
(追記:歌詞のカタカナ表記。これで一緒に歌える。)
詩編126歌詞
シール・ハアマロット・ベシューヴ・アドナイ・エット・シヴァト・ツィヨン・ケホレミーム:
アズ・イマレー・セホック・ピヌー・ウレショネーヌ・リナー
アズ・ヨメルー・ヴァイゴイーム
ヒグディル・アドナイ・ラアソット・イム・エーレ:
ヒグディル・アドナイ・ラアソット・イマーヌ
ハーイヌ・セメヒーム:
シュヴァー・アドナイ・エット・シュヴィテーヌ
カアフィキーム・バネゲヴ:
ハゾイレーム・ベディムアー・ベリナー・イクツォールー
ハロフ・イェレフ・ウヴァホー・ノセー・メシェフ・ハザーラ
ボー・ヤヴォー・ヴェリナー・ノセー・アルモタヴ
シール・ハアマロット・ベシューヴ・アドナイ・エット・シヴァト・ツィヨン・ケホレミーム:
アズ・イマレー・セホック・ピヌー・ウレショネーヌ・リナー
アズ・ヨメルー・ヴァイゴイーム
ヒグディル・アドナイ・ラアソット・イム・エーレ:
ヒグディル・アドナイ・ラアソット・イマーヌ
ハーイヌ・セメヒーム: