「デンマルク国の話」が教える三つのこと

内村鑑三は、「デンマルク国の話」の中で、ドイツやオーストリアに戦争で負けて国土を大幅に失い、貧しい小さな国土しか残らなかったデンマークが、ダルガスという人物の努力により、植林を行って豊かな土地となり、今は一人当たりはイギリスやアメリカよりかえって豊かな国となった歴史を感動的に物語っている。


このダルガス、エンリコ・ダルガスという人物は、wikipediaで見たところ、デンマーク語版はあるものの、英語版がないので、おそらくそんなに世界的には有名というわけではない人物なのかもしれない。
http://da.wikipedia.org/wiki/Enrico_Mylius_Dalgas


その人物に脚光を当てているなんて、内村鑑三はすごいなぁとあらためて調べてみて思った。


詳しい物語は、実際にこの「デンマルク国の話」を読んでいただくとして、
(今は便利なことにWEB上でも読める。ごく短い文章なので、311後の全ての日本人に読んで欲しい。http://www.aozora.gr.jp/cards/000034/files/233_43563.html )


この中で、内村は、デンマークのこの事例から学ぶこととして、三つのことを挙げている。


戦争に負けることは必ずしも不幸とばかりは限らないこと。
自然の生産力は無限であること。
信仰こそ本当の力だということである。


ちょっと長いが、とても深い文章なので、いかにそのまままず引用したい。


「第一に戦敗かならずしも不幸にあらざることを教えます。国は戦争に負けても亡びません。実に戦争に勝って亡びた国は歴史上けっしてすくなくないのであります。国の興亡は戦争の勝敗によりません、その民の平素の修養によります。善き宗教、善き道徳、善き精神ありて国は戦争に負けても衰えません。否いな、その正反対が事実であります。牢固たる精神ありて戦敗はかえって善き刺激となりて不幸の民を興します。デンマークは実にその善き実例であります。
 第二は天然の無限的生産力を示します。富は大陸にもあります、島嶼にもあります。沃野にもあります、沙漠にもあります。大陸の主かならずしも富者ではありません。小島の所有者かならずしも貧者ではありません。善くこれを開発すれば小島も能く大陸に勝るの産を産するのであります。ゆえに国の小なるはけっして歎なげくに足りません。これに対して国の大なるはけっして誇るに足りません。富は有利化されたるエネルギー(力)であります。しかしてエネルギーは太陽の光線にもあります。海の波濤なみにもあります。吹く風にもあります。噴火する火山にもあります。もしこれを利用するを得ますればこれらはみなことごとく富源であります。かならずしも英国のごとく世界の陸面六分の一の持ち主となるの必要はありません。デンマークで足ります。然り、それよりも小なる国で足ります。外に拡がらんとするよりは内を開発すべきであります。
 第三に信仰の実力を示します。国の実力は軍隊ではありません、軍艦ではありません。はたまた金ではありません、銀ではありません、信仰であります」


この三つは、311以後の日本にとって、本当に復興の指針になる言葉だと思う。


一番目の敗戦と内村が言っていることは、私たちは震災と言い換えてみると胸に迫ると思う。
実際、311を先の大戦の敗戦以来の国難ということは、当時の首相をはじめ多くの人がリアルタイムに言い、そして実際にそう感じてきたことだ。
内村が言うように、確固とした善き精神と理念と信念さえあれば、災い転じて福となし、かつて以上に本当に豊かな良い国にすることが、日本にはできるはずだと、あらためて思わされる。


また、第二番目は、本当に今の状況のもと、考えさせられることで、再エネ等々、私たちがこれからもっと自分の国の内部に目を向けて、有効に自然エネルギーや人間の能力を開発すべきことを教えられる。


また、三番目の信仰というのは、内村はキリスト教徒なのでどうしてもこういう表現になると思うが、私のようなキリスト教徒でないものにとっては、信念や理想と言い換えればいいのではないかと思う。
震災後、復興のためのいろんな構想や理念が政治家や識者によっても語られてきたし、国民各自がそれぞれに考えてきたことだと思う。
被災地の復興や、それにとどまらない、日本の国家社会のありかたの見直しや、各人の人生のありかたへの、信念や理想が311以来、問われてきたし、これからも問われていくのだと思う。
そして、しっかりとした信念と理想があれば、我々にはいかなることも可能だということを、この「デンマルク国の話」にはあらためて教えらえると思う。


「後世への最大遺産」と合せて、この「デンマルク国の話」は、本当に、いまあらためて、繰り返し、真剣に、読み直され、語られるべき本だと思う。