粕屋郡中三十三観音 (表糟屋郡三十三番札所)

福岡県粕屋郡に、粕屋郡中三十三観音という霊場めぐりがある。
(表糟屋郡三十三番札所とも)


江戸期頃につくられた霊場らしい。
ただ、今はあんまり知る人も多くなく、インターネットで検索してもぜんぜん載せている情報はないようだ。


時折、訪れるお寺に「粕屋郡中三十三観音札所第○番」という表示があって、何だろうと思い、調べてみた。


河辺秀治さんという方が書いた『粕屋三十三カ所観音霊場』という本が福岡県立図書館にあった。
とても参考になる貴重な本だったが、今は絶版で入手不可能らしい。
『全国三十三カ所観音霊場および全国八十八カ所霊場資料集』にも各札所の名前と御詠歌の一覧があった。


それらを参照に、以下に各札所の名前と御詠歌、場所と備考を書いてネットに載せて、広く多くの人に知ってもらいたいと思う。


ひとりでも検索でこの霊場を知り、お参りする人がいれば、幸甚この上ない。


とはいっても、私自身、この札所のすべてをまだ回ったことがない。
いくつかの観音の御像の美しさにとても心惹かれ、驚いたことがあるだけである。
いずれ時間を見つけてゆっくり回ってみるつもりである。


福岡には、他にも筑前三十三観音筑後三十三観音、石城町三十三観音などがあるし、九州北部には九州西国三十三観音もある。
考えてみれば、日本全国どこでもそうかもしれないが、福岡もまた観音の霊地と言えるかもしれない。
音霊場めぐりは、自然や文化や仏教に触れるのにとても良い縁になると思う。
近隣の人は、今は忘れられかけている粕屋郡中三十三観音めぐりもぜひ試みていただきたいと思う。
糟屋郡三十三観音には独自の御詠歌まであって、かなり面白いのではないかと思う。





「粕屋郡中三十三観音 (表糟屋郡三十三番札所)


第一番 若杉 石泉寺

補陀落や 同じみのりも 若杉も 
誓ひの山に 響く瀧つ瀬」

若杉山中腹にある若杉奥之院


第二番 久原 首羅山 頭光寺

「名に高し 修羅の利益は 有明
 月の光の 到らぬはなし」

糟屋郡久山町上久原八五〇辺。乙宮の西隣。


第三番 佐谷 建正寺

「さしも草 さしも恵みの あればこそ 
谷の嵐も 教えなるらむ」

糟屋郡須恵町佐谷観音谷六二九。


第四番 田富 西福寺

「若緑 春けき空も のどかにて
田富が原に 駒ぞいさめる」

糟屋郡志免町田富二二六。


第五番 上山田 清谷寺

「おのづから 心の塵も なかるべし
清谷寺に 参る身なれば」

久山町大字山田六五一。


第六番 尾仲 萬浄寺・見性寺

「山坂を越えて尾仲をたずぬれば
千草ぞ花の うてななりけり」

篠栗町尾仲八一五。古谷勇吉宅敷地東隅。
同字九四五の二。見性寺山門左脇堂。


第七番 和田 龍蔵寺

「願ひあるは その純なくば 龍蔵寺
頼みをかけて 運ぶ順礼」

篠栗町大字和田六八三 上馬場宅脇。


第八番 蒲田 東照寺

「よもすがら 蒲田を照らす 月影は
さながら瑠璃の 光りなるらむ」

福岡市東区蒲田一の十三。


第九番 猪野 観音堂(辻ノ堂)

「一筋に 祈る心を 猪野村の
大慈大悲の あるにまかせて」

久山町大字猪野一二三五。バス停前。


第十番 高田 慈眼堂

「高きより 田面に移す 灯し火の
慈眼堂よと 臥し拝みけり」

篠栗町大字高田三三四脇。四国三十二番の堂の右並び。


第十一番 南里 観音寺

「南無大悲 巡る日数の 重なれば
わが古郷も 近くなるらむ」

糟屋郡志免町南里四二三


第十二番 仲原 天祐寺

「なかなかに 花の都を ふり捨てて
波羅蜜の 頼みあるなり」

糟屋郡粕屋町仲原二○○七。


第十三番 吉原 観音堂(御手水)

「吉原や 御手水みずに 影とめて
声すみわたる 有明の月」

志免町吉原の御手水池下、平成の森公園奥にある堂。


第十四番 宇美 今長谷寺

「宇美の宮 檜原杉原 わけ行けば
早見にかかる 木々の花香ぞ」

糟屋郡宇美町大字宇美(早見)三三二三 観音堂


第十五番 障子岳 極楽寺

「障子岳 悟りて見れば そのままに
ここぞまことの 極楽寺なり」

宇美町障子岳二ノ一五ノ八。


第十六番 炭焼 清水寺

「炭焼の 音羽の瀧は 清水の
同じ流れを なほ仰ぐなり」

宇美町貴船二ノ一ニノ一三。貴船宮西の高台。


第十七番 旅石 海蔵寺

「旅石の 古き名のみや 跡たえて
石礎残る 玉垣の内」

須恵町旅石七二七裏。尋聲寺。


第十八番 志免 西念寺

「誓ひある 志免しが原と 聞く時は
心強くも 祈るなりけり」

志免町志免五八二。山門入って左手観音堂


第十九番 本合 栄泉寺

「人よりも 佛のちぎり もらさじの
あいにあふひと 高きいやしき」

須恵町乙植木一六九一。林松寺境内観音堂


第二十番 上中原 長泉寺 

「ふしぎある その水上は おわすかや
今中原に あらわれにけり」

粕屋町甲仲原一三一一 密蔵寺の右並び。


第二十一番 名子 森江寺

「名所も あとふり捨てて 森江寺
木の葉かくれに 拝む月かな」

福岡市東区名子二ノニノ三五 覚応寺 境内左手。


第二十二番 大隈 泉寺

「丸山や 流れも深き 泉寺
心清めて 誓ひ頼しき」

粕屋町大隈一一四二辺。御霊宮の鳥居内側。


第二十三番 乙犬 久徳寺

「心なき 身にも菩薩は 知られけり
乙犬寺の 入相の鐘」

篠栗町乙犬四三七。


第二十四番 篠栗 遍照院

「石原や ありしきとくは 篠栗
うつして拝む のりの道かな」

篠栗町大字篠栗(上町石原)三九七〇。


第二十五番 金出 珠林寺

「古も 金出川を せきとめて
末の世までも かくる村郷」

篠栗町金出三四七九。境内左手堂。


第二十六番 津波黒 部木

「山深く 打ち出す水は 津波黒の 
ふきあけて見る 勢門の川波」

篠栗町津波黒(部木)一七七。津波黒集会所の東方民家の間にある路地を入ったところ。


第二十七番 伊賀 東円寺

「年々に 来る心の いかなれば
はしりて払ふ 山本の塵」

粕屋町戸原(伊賀)八一。薬師堂境内右手堂。


第二十八番 別府 正覚寺

「別れては また逢ふことの かたければ
ふかくぞ頼む 正覚の道」

志免町別府二四九。境内。


第二十九番 八田 土井観音堂

「八軸の みのりを袖に たもちつつ
ただ明け暮れに 頼む無漏の津」

福岡市東区青葉一ノ二三ノ三一辺。天満貴船神社西。


第三十番 多々良 普門寺

「古の 跡は絶えても 多々良浜
名はとどまりて 守る普門寺」

福岡市東区多々良一ノ二一ノ一一辺。多々良公民館西。


第三十一番 松崎 寺蔵

「松崎に たなびく雲の 晴れ間より
かたじけなくも 拝む日の影」

福岡市東区松崎(正木)三ノ二五ノ一 地蔵寺


第三十二番 名島 法長寺

「名島がた 潮満ちくれば 渡し守
これぞまことの のりの舟おと」

福岡市東区名島三ノ一四。名島三丁目集会所向い広場の堂。


第三十三番 箱崎 潮音寺

「ありがたや しるしの札を 残りなく
打ちて納むる 箱崎の寺」

福岡市東区箱崎(網屋)二ノ一〇ノ一九。天満宮鳥居正面の堂。