二年ほど前、川島芳子を描いたドラマ「男装の麗人〜川島芳子の生涯〜」という番組があっていた。
(以下はその番組を見た時の感想)
面白かった。
黒木メイサが川島芳子を演じていたのだけれど、好演していたと思う。
もちろん、史実そのままではなくて、いろんな脚色もあるみたいだけれど、川島芳子の生涯というのは、本当にさながら一篇の劇か小説のようだと思う。
そして、あまりにも悲劇的だったと思う。
川島芳子の境遇であれば、あのように生きる他に、いったいどんな選択肢があったのだろう。
さるべき業縁のもよほさばいかなる振る舞いもすべし、というけれど、川島芳子はあまりにも数奇な悲劇的な業縁に生まれついて、たしかに多くの罪業を重ねたとしても、他にどうしようもなかったような気がする。
清朝復辟を願わず、そのような夢を捨てればよかったのかもしれないが、それは傍からのみ言えることで、あのような境遇に生まれついた人には、どうしても捨てきれぬ責任や思いもあったのだろう。
人の人生というのは難しいし、時にあまりにも悲劇的な気がする。
にしても、今もって多くの人に語られ、これだけドラマにもなっているというのは、その生涯が、単に劇的というだけでなく、何かしら人々の共感や涙を誘うからなのかもしれない。
そういえば、このドラマには、田中隆吉ぐらいしか川島芳子の相手として登場していなかったけれど、笹川良一とも交際があったという話も聞く。
映画の「ラスト・エンペラー」では、溥儀の妃の婉容となんだかレズっぽい関係のように描かれていたと記憶するが、本当はどうだったのだろう。
いろいろ、あることないこと生前も死後も書きたてられたという点でも、あるいは本当だったとしたらなおのこと、悲劇的な生涯だったということだろうか。
川島芳子の辞世は、
「家あれども帰り得ず
涙あれども語り得ず
法あれども正しきを得ず
冤あれども誰にか訴えん」
だったらしい。
日本も中国も、あまりにも川島芳子に対して、冷酷であり、無慈悲だった。
この辞世の句のような思いを抱く人が、これから先、なるべく現れないようにするのが、後世の人間のせめてもの務めというものなのかもしれない。