アウンサン・スーチーとロヒンギャと軍部について

アウンサン・スーチーに対しては、ロヒンギャの迫害に反対しなかったということで、随分と非難している人々がいたけれど、そういう人々はミャンマー憲法や政治情勢が分かっていないのではないかと思う。

ミャンマーは半世紀以上軍部が支配していた国であり、通常の国とは全く置かれている状況が違う。

 

2015年の民主的な選挙よりも前に、軍部はスーチーを排除するために憲法に外国籍の家族を持つ者は大統領になれないという規定を盛り込んだ。

また、憲法改正には議会で四分の三以上の賛成が必要という規定にした。

で、軍部は選挙なしに四分の一の議席を占有することを定めた。

 

つまり、スーチーが軍部のロヒンギャ攻撃を批判すれば、何の権限もないので軍部の行動を止められない上に、大多数の国民からは支持を失い、2020年の選挙で大敗するのが目に見えていた。

一方、ロヒンギャ攻撃を黙認すれば、国際社会からスーチーは非難され、国際社会の支持を失うことは目に見えていた。

 

そもそも、ロヒンギャがなぜそこまでミャンマー国内で嫌われるかは根深い問題があり、ビルマ独立の際にロヒンギャを除くすべての民族が結束してイギリスと戦ったのに、ロヒンギャのみ英側についたという歴史がある。

また、イスラム教徒であり、最初にテロを行ったのはロヒンギャという問題もあった。

 

スーチーは苦渋の選択で、ロヒンギャの問題については当面沈黙を守り、そのために国際社会での支持や人気を失ったが、国民の支持を得る方を選択し、昨年2020年12月の選挙に再び圧勝した。

軍部はこの結果を見て、今回の軍事クーデターを起こした。このままでは既得権益を失うのがわかっていたからである。

 

以上のような経緯があるのに、スーチーはロヒンギャを助けなかったから軍部のクーデターに対してもそこまで擁護する必要はないと思っている人々は、やはりあまりにも短絡的ではないかと思う。

憲法の制約や状況の中で、なんとかスーチーが一手一手覆そうとしていたことをきちんと見るべきだろう。

 

欧米のような民主主義が根付き、政府の統制に軍部が服している国々の人々にはミャンマーの状況に無理解になるのはやむを得ないとして、つい七十年~八十年前に、軍部の横暴に苦しみ苦渋を飲んだ日本は、少しはミャンマーの状況に理解を持ち、断固スーチーを支持すべきではないか?

私はそう思う。