参院選が終わった。
憲法九十六条改正の是非も争点の一つだったが、今後その点はどうなるだろう。
参院の議席数の三分の二は、162議席である。
今回の選挙の結果、自民・みんな・維新を足すと、142議席となった。
さらに、公明を足すと、162議席となる。
公明が、仮に改憲に賛成すれば、ちょうど三分の二になる。
あるいは、民主党が分裂してある程度自民などに入れば、すぐに改憲勢力が三分の二ということになった。
もはや、公明になんとか安易な改憲には応じない姿勢を貫いてもらうことと、民主に分裂せずに団結してもらうことを期待する他はない。
共産党も、自分たちだけではどうにもならないことを認識して、憲法九十六条改悪を阻止するためには、敵は自民に絞り、あまり民主を叩ぎ過ぎないようにした方が良いだろう。
自民・公明・維新・みんなを合わせると、参院の三分の二議席になるということは、自民党とその補完勢力の足並みがそろえば、もはや国民投票以外には、憲法改正の歯止めはきかない状況になったということである。
安易な憲法九十六条改正を防ぐためには、これらの歩調がそろわず、足並みが乱れることを望むばかり。
しかし、意外と彼らは結束するかもしれない。
肝心の民主・生活・共産は、足並みは揃わないことが容易に予測される。
民主党は、自民党から学ぶべきことがある。
それは、どんなに意見の違いはあっても、小異を捨てて大同に就き、大きなところではまとまって、一つの党としてまとまることだ。
今は内輪で争っている余裕は全くない。
今こそ、一致団結し、協力していって欲しい。
敵は自民党一強支配である。
選挙期間中も、毎度思うことは、リベラル内部の批判の醜さと不毛さである。
自民が圧倒的に優勢な中で、民主党の悪口を始終言っている人々は、また、民主党の内部の誰かを責めたり批判している人々は、自分たちが自民党にとって一番好都合な言動をして、別働隊になっているということを少しは自覚して欲しい。
特に、生活の党の方々は、民主党を分裂させた結果、民主党も大きく力を殺がれ、自らも自滅したことを、はっきりと認識して欲しい。
その結果は、自民党にただただ有利に働いただけだということも。
生活の党が参院選でゼロ議席だったこともはっきり直視して反省して欲しい。
もう民主叩きをやめて、リベラルは協力し合うことを学んで欲しい。
民主党の中には、長嶋さんのように解党を言い出している人もいるようだが、大事なことは同じ旗を掲げて立ち続けることである。
また潮の流れが変わることもある。
おごる平家は久しからず。
今は自民がいくら優勢でも、また流れは変わる。
大事なのは、その時に、はっきり源氏の旗を掲げることができることだ。
民主党は、一時的な苦境に一喜一憂せず、党名変更や解党など断じてせずに、このままの名前を貫いて、今日から気を取り直してがんばっていって欲しい。
選挙というのは、とりあえず多数の支持によって政治家を決めるだけのことだ。
多数者の意見がいつも正しいとは限らない。
たいていの場合、節穴である。
政策の正しさと、選挙に勝つかは、必ずしもイコールではない。
どうもその点をわかっておらず、傲りたかぶるものや過剰に反省する人が多すぎる。
時の勢いで、議席が大きく増えたり減ることはそのつどあることだ。
大事なことは、しっかりとした対抗勢力が政党として存在し続け、充電することである。
今は一応景気が良く見えるので、安倍政権に支持が集まっているが、今後安倍政権が、社会保障の削減を進めれば国民の生活に響いてくるし、賃金が上がらずに物価が上昇し続ければ、国民の不満は急速に高まるだろう。
出番は案外近いかもしれない。
時の流れや勢いというものは、これは努力だけでは必ずしもどうかできるものではない。
民主党はあんまり過度に反省したり、内部で責任をなすりつけあうより、まずまずよくがんばっていると自らを認めて、また立ち直って欲しいものだ。
ハロルド・クシュナーによれば、モーゼは、この世の中に起きることは、自分の力のせいだけではないと認識していたという。
だから、成功した時も驕ることがなく、失敗した時も落ち込まなかった。
自分の力のせいだけではなく、世の中にはいろんな要因や条件が働いていると知っていたから。
それが謙虚さということだ。
それに、今回の選挙においては、一票の格差も相変わらず強く存在している。
「1票の格差」全国で提訴
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/130722/trl13072211490000-n1.htm
一応四増四減の改革がなされたけれど、以前が5・01倍だったのが、4・77倍になっただけである。
いずれにしろ、もっと選挙制度を改革しないと、一票の格差は解消されない。
たとえば、自民党の森谷宏さんは14万2529票で当選。
一方、民主党の鈴木寛さんは55万2714票で落選。
理由は、ひとえに一票の格差である。
(前者は山梨選挙区。後者は東京選挙区。)
民主党は、内部で誰かを責めあうよりは、一票の格差という制度的な問題を解決することに力を尽すべきである。
それが本当の意味で、鈴木寛さんらの無念を晴らすことにもなるはずである。
また、民主党の今回選挙での敗因の大きな理由は、投票率の低さでもある。
民主党に肝に銘じて欲しいのは、選挙に行かない五割弱の人々を自分の票田に取り込まない限り、自民に勝ち目はないということだ。
投票率が下がり、労組だけ見ていれば、今と状況は変わらない。
土建とJAと経団連に頼れる自民党と、そこが違うことを肝に銘じてほしい。
自民党は、経団連と土建とJAがついているので、別に応援しなくても勝つ。
一方、民主党は、労組ぐらいしかバックがないので、無党派層が応援しないと勝ち目はない。
民主党自身も、無党派層も、そのことははっきり認識すべきである。
国民が育てぬ限り、自民に対抗する勢力は育たない。
今回、ネット選挙が解禁になったが、まだネットの力は十分に発揮されておらず、政治においては限定的な影響しかもたらしていないようである。
しかし、潜在的な可能性は大きい。
民主党は、今まであまりにも広報やイメージづくりや、新たな支持獲得が下手だった。
政権時代の一番の問題はそこにあった。
この欠点を改善するためには、ネットは最も大きな武器のはずである。
たとえば、twitter上にいる何人かの民主党応援の常連の方々を、民主党が本気でアプローチして、連携させてメディア対策などをしてもらうだけで、イメージ戦略やネットによる効果は全然違ってくると思う。
旧態以前たる労組頼みの選挙活動しかしてないならば、五割弱の選挙に行かない人々は動かせないままだろう。
もちろん、投票率が低いことは、民主党だけの責任ではなく、何よりも国民自身の問題である。
期日前投票の制度がこれほど完備しながら、選挙に五割弱の人が行かないとは、どういうことか。
それらの人々には、政治がいかに悪くなろうが、文句を言う資格はない。
そのことは、まず、国民自身が自らに問うべきことだろう。
誰がやっても同じという無力感や無関心が蔓延しているが、上記に述べたように、自民党は特定の利益団体に依存する以上、それらの意向を強く考慮せざるをえない。
また、自民党は民主党政権下の野党時代に、特に過激な右派をその支持基盤とする傾向が強まっている。
たとえば、以下のようなツイッター上の現実がある。
「参院選終了!そして図に乗って大戦時のように涌き出ているネトウヨさんたちの美しい言葉を集めました」7/22
http://togetter.com/li/537182
こういう人々が、自民党の支持層の、少なくともかなりの割合を占めていることは、考慮すべき問題である。
また、投票に行ったとはいえ、誰に投票するかという、投票の質の問題もある。
丸川珠代さんやアントニオ猪木さんやワタミさんが当選し、一方この方がと思うような方が、しかもたくさん票はとっているのに一票の格差で落選していたりするのを見ると、この世は何だろうと思わざるを得ない。
丸川珠代さんなどは、百六万票を獲得している。。
百万人以上支持したということだが、正直、丸川さんのどういうところをそれらの方々は支持したのかよくわからない。
丸川珠代さんは、以下のネット上の質問十一問中、七つは「回答なし」である。
要するに、半分以上は答えていない。
http://senkyo.yahoo.co.jp/kouho/s/14735.html
投票率全体の低下の問題と、仮に投票に行ったとしても、その投票の質の問題は、どちらも今後の日本にとって大きな課題だが、そうであればこそ、心ある人は、デモクラシーの質を高めるために日々に、選挙以外の時に地道に努めるしかないのだろう。
もっとも、以上のことは、今回選挙における問題点ばかりを述べたが、物事の良い面に目を向けることも大切だろう。
憲法九十六条の安易な改正を防ぐという観点から言えば、民主党が大きく議席を減らしたことは憂慮されるが、共産党が躍進して、国会の党首討論に参加する権利を回復したことと、維新の会が、ほぼ得票数で前回衆院選に比べて半減したことは、極めて喜ばしいことだったと言えるかもしれない。
自民一強は権力の偏在という点で問題だが、国民は案外と賢いところもあるとこの二つのことを見ていると思う。
自民一強も、長くは続かないかもしれない。
投票率が違うし、衆院選と参院選の違いはあるものの、維新の会は、2012年衆院選では、比例区の得票は1226万2228票だった。
今回の参院選では、593万6071票。
ほぼ半減した。
共産党の躍進と、維新の半減だけが、今回の選挙の良かったことかもしれない。
民主惨敗と自民一強は、なんとも憂慮すべき事態ではあるが。
共産党が躍進して国会での党首討論に参加する権利を回復したことは、国会討論の活性化という点で、今後大いに期待できるかもしれない。
志位さんには、国会の党首討論で安倍さんに対して大いに質問をぶつけていって欲しい。
もっとも、共産党だけでは、自民党とその補完勢力の圧倒的に優勢な国会において、十分に抵抗できないことも、現実である。
民主党には、再びなんとかがんばって欲しいものである。
「何も咲かない寒い日は 下へ下へと根を伸ばそう やがて大きな花が咲く」
以前、そんな言葉を聴いたことがある。
今が民主党にとってその時だろう。
共産党も、ずっとそのようにしてきたから、今回の躍進があったのだと思う。
そして、リベラル全体として、今がその時期である。
聖書の詩編には、こんな言葉がある。
「涙と共に種を蒔く人は
喜びの歌と共に刈り入れる。
種の袋を背負い、
泣きながら出て行った人は
束ねた穂を背負い
喜びの歌をうたいながら帰ってくる。 」
(詩編百二十六編)
今は、自民党が圧倒的に優勢であるが、今蒔く種が、必ず未来をつくっていく。
デモクラシーと自由の種を蒔き、大事に育てていくことは、これからの日本における、いまだに大きな課題である。