菅・野田政権は「嘘」をついたのか? 消費税をめぐる公約について

【菅・野田政権は「嘘」をついたのか? 消費税をめぐる公約について】


民主党、特に菅・野田政権について、「嘘つき」という批判を今でもよく聞く。
当時は非常に多かった。


理由は、「消費税を上げないと言っていたのに消費税を上げた」ということらしい。


では、本当に彼らは「嘘つき」だったのか検証してみたい。


まず、2009年の民主党マニフェストには、消費税を上げないとも上げるとも、一言も書いていない。


ときどき、「民主党の消費税増税マニフェスト違反!」と言っている人が、当時も今もいるが、マニフェストには消費税を上げないとは書いていないので、違反とは言えないだろう。
マニフェスト本文は以下で閲覧できるので、各自その点はまずはっきり確認して欲しい。
http://www.dpj.or.jp/article/manifesto2009


ただし、記者会見で、鳩山代表(当時)が、四年間消費税を上げないとは言っている。


このことについて、多くの人は問題にしているようだ。


しかし、ここで考えて欲しい。


消費税が実際に増税になったのは、2014年4月である。
つまり、2009年の政権交代前から、五年後である。


また、その増税を決定した閣議決定は、2013年10月であり、2009年9月の政権交代から、すでに四年以上経っている。


つまり、「四年間は消費税を上げない」という公約について、上記の実際の経緯からは、公約を破ったとは言えない。(注)
このことは、単純な算数ができれば、誰にでもわかることである。


しかし、菅政権は、2010年の参議院選において、2012年の消費税増税を掲げていたのではないか、それは公約違反ではないか、という人がいる。


しかし、これも正確ではない。
2010年の民主党参院選マニフェストには、消費税の協議を進めるということが明記してあるのみで、時機がいつかは書かれていない。


マニフェストの記者会見で、玄葉政調会長が、質疑応答の時に最速で2012年秋と言ったことをとらえてそのように言っている人がいるようだ。


正確には、玄葉さんが言っていたのは、


「税率引き上げの時期については「大きな税制改正を行う場合、あらかじめ国民に信を問うことがあるべき道だ」と述べ、基本的に次期衆院選後になるとの見通しを示した。民主党玄葉光一郎政調会長は「一番速いスピードで超党派の合意ができたとしても、12年度秋が最速と考えていいのではないか」との見通しを示した。」
東京新聞 2010年6月18日付)
http://www.tokyo-np.co.jp/hold/2010/saninsen10/all/CK2010061802100011.html


ということである。


つまり、消費税増税の前には衆院選後になる、その場合、もし超党派の合意ができれば、衆院解散を行い、最速であれば2012年秋になるだろう、というその時点での見通しを述べただけで、2012年秋に消費税を上げることをマニフェストにしたわけでもなんでもない。
また、衆院選を経た上でのことを述べていたまでのことである。


以上、見てくると、消費税増税は公約違反だった、という意見は、本当は根拠がないのではないかと思われる。
消費税については、さまざまな意見があって良いと思うし、当然批判の立場はありえると思う。
しかし、消費税増税を政策論として批判するかどうかと、公約違反の嘘つきとして倫理的に批判するかどうかは、また別の問題である。
前者の議論は大いに結構と思うが、この数年、後者の問題がどれだけ前者を覆い隠したり停滞させたかは非常に問題があったのではないかと思う。


なお、野田さんが、政権交代前の街頭演説で、マニフェストに書かれてないことはやらない、まずはシロアリを退治する、ということを言った演説を挙げて、野田さんを批判したり揶揄嘲笑する声は、当時も今もかなり多いようである。


しかしながら、民主党の2010年のマニフェストには、


「早期に結論を得ることをめざして、
消費税を含む税制の抜本改革に関する協議を超党派で開始します。」


と明記してある。


2011年に総理になった野田さんは、まさにこのマニフェストに書かれていることに忠実に取り組んだわけだ。
また、野田政権は、公務員の給与を7.8%削減し、議員歳費を540万円を実際に減らしていた。
短命政権に終ったため、まだ実現できていなかったが、独立行政法人を四割減らし、特別会計を17から11に減らし勘定も半分に減らすと明言し、特別会計改革を閣議決定もしていた。


こう見ると、特に小沢支持者が行ってきた「嘘つき」という批判は、批判と言うより、単なる誹謗中傷の類ではないかと私には思われる。



(注)鳩山代表(当時)自身が、四年間は消費税を上げないけれど、議論を封印するわけではないと、政権交代前の時点で明言している。


『消費税議論、封印せず 鳩山代表「4年間は増税必要なし」』(2009年7月28日付 産経新聞
 民主党鳩山由紀夫代表は7月27日の記者会見で、消費税率の引き上げについて「4年間は議論の必要はない」としてきた自らの主張について「将来に関する消費税の議論を一切、行うべきではないと曲解されたのであれば、訂正したい」と述べ、これまでの方針を修正し、議論自体は封印しない考えを示した。
 ただ、鳩山氏は「(年金改革による新制度導入でも)当面は現在の消費税率5%で十分まかなえるという試算が出ている。4年間は増税を行う必要はない」との考えを改めて示した。
 一方、鳩山氏は首相に就任しても政権公約が実現できなかった場合には「政治家としての責任を取る」と明言。また、政権交代ができなかった場合も「大きな責任を負う」と述べた。(以上)





【追記】


なお、2010年の参院選民主党が「惨敗」したことをもって、消費税増税が民意によって否定されたと主張する人々がいる(主に小沢支持者に多いようだ)。


しかし、2010年参院選民主党は得票数第一位である。


参照
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AC%AC22%E5%9B%9E%E5%8F%82%E8%AD%B0%E9%99%A2%E8%AD%B0%E5%93%A1%E9%80%9A%E5%B8%B8%E9%81%B8%E6%8C%99



その得票数が議席に反映されなかったのは、一票の格差という制度的不備によると言える。


また、2010年の参院選直前の世論調査では、66%の人が消費税の引き上げが必要と答えている。


※「消費税引き上げ「必要」66%…読売世論調査
http://www.yomiuri.co.jp/election/sangiin/2010/news1/20100613-OYT1T00676.htm


さらに、2010年の参院選で、獲得議席数の多かった自民党は、公約で明確に消費税増税を掲げている。


「「財政健全化責任法」の早期成立
    税制の抜本改革、消費税から逃げない消費税に逃げ込まない」


「安心社会実現に向けた税制抜本改革
 消費税を含む税制抜本改革については、平成21年度税制改正法附則や「中期プログラム」による道筋に沿って実施します。これにより、安心で豊かな福祉社会及び公正で活力ある社会を実現します。
 消費税については、基礎年金の国庫負担割合の2分の1への引き上げに要する費用を賄うとともに、これからも増加が見込まれる年金、医療及び介護の社会保障給付と少子化対策の費用に全額を充てることを予算・決算において明確にした上で、経済成長戦略とムダ削減の不断の努力を行いつつ、消費税の税率を引き上げます。
消費税率等については、
(1)少子化対策や年金・医療・介護の機能強化に要する費用
(基礎年金の国庫負担割合の2分の1への引き上げ分を含む)
(7兆円)
(2)高齢化の進展に伴う今後必要な社会保障費の自然増分
(初年度1兆円)
(3)現在、消費税以外で賄われている年金・医療・介護にか
かる費用(7.3兆円)
等を考慮し、当面10%とすることとし、政権復帰時点で国民
の理解を得ながら決定するものとします。その際、食料品の
複数税率等、低所得者への配慮も併せて検討します。」


(以上、自民党の2010年参院選公約より)
https://www.jimin.jp/policy/manifest/


つまり、自民党に投票した有権者は、消費税増税をより積極的に推進することを支持していたわけである。
したがって、一票の格差によって議席数が民主党が伸び悩んだとしても、その分自民党に増えた分の議席数や、得票数では二位だったものの増えた自民党の得票自体は、より積極的な消費税増税を支持する民意でこそあれ、なんら菅政権の消費税増税推進を否定する民意とは言えない。


2010年参院選での、民主党自民党の得票率を合わせれば、選挙区で七割を超え、比例区で五割を超える。
過半数を軽く超える国民が、消費税の協議および増税を支持したと得票率からは言える。
議席数でも、民主と自民を合わせれば190となり、242の参院のうちの圧倒的多数になる。