昨日、以前録画していたBBCの「スリランカ フランシス神父を捜して」という番組を見た。
2009年に失踪したカトリックの神父のフランシス・ジョゼフさんについての番組だった。
去年作成された番組である。
試しに検索したところ、日本語のサイトは、ほとんど情報がなかった。見た人もほとんどいなかったのだと思う。
(BBCの英語版には詳細なページがあった。
もともとスリランカの出身で、神父になったあと、教会が運営する学校の校長を長きに渡り務め、多くの人に慕われていたそうである。
番組では、フランシス神父のいとこの九十代になる男性が、毎朝毎晩無事を祈っていることや、会いたいと訴えている姿が映っていた。
また、その他の友人知人のインタビューや、支持者の人々がプラカードを持って神父の捜索を政府に訴えている様子が報じられていた。
また、番組では、LTTEの拠点のキリノッチ周辺で2009年に激しい攻防が行われた時に、フランシス神父だけではなく、四千人以上の人が行方不明となっており、未だに行方がわからないということも伝えていた。
スリランカ政府は2017年に行方不明者捜索の機関を設置し、捜査を進めているとのことだったが、未だに不明だそうである。
番組でも、おそらく投稿したLTTEの兵士たちを政府軍が非公式に処刑してどこかに埋めたのではないか、フランシス神父もそれに巻き込まれたのではないか、ということが暗示されていた。
LTTE(タミル・イーラム解放のトラ)は、タミル人の独立を目指した反政府組織だが、ずいぶんとひどい組織だったようで、番組でも少年少女を誘拐してテロリストや兵士に仕立てていたことが取り上げられていた。
フランシス神父は、べつにLTTEを支持していたわけではなく、そのような巻き込まれていた人々を、なんとか助け出したいと願っていたようである。
また、相対的に少数派であるタミル人の境遇に深い同情を持っていて、最後はローマ教皇にタミル人の独立を訴える書簡も出していたそうだ。
スリランカは、かつて1980年代から2009年まで、長く内戦が起こっていて、LTTEのテロに苦しめられていた。
シンハラ人の人たちの穏やかさと優しさと、仏教にもとづくとても健全で道徳的で知恵ある姿や伝統は、とても印象的だった。
一方、タミル人の人とは、実際に会ったことがないので、正確なことはよくわからない。
もともとスリランカはシンハラ人が多数だったが、タミル人もいたらしい。
しかし、イギリスの植民地時代にインドから多くのタミル人が渡ってきたことが、問題を複雑させたらしい。
シンハラ人はイギリス人に対し誇り高く、イギリス人にあまり従順ではなく、イギリス人から見れば勤勉でもなかったので、よく働くタミル人が植民地時代に重宝されたそうである。
また、いつものイギリスの分断政策によって、意図的にタミル人とシンハラ人の対立が助長され、少数派のタミル人が教育や公務員の就職などで優遇された結果、比較的社会における知的な有利な職業にタミル人がつく割合が高かったそうである。
LTTEのテロは、正直常軌を逸したもので、多くのシンハラ人が犠牲になり、それだけに反発や怒りも大きく、最後は徹底した掃討作戦で鎮圧されたようだ。
私は知人や友人の関係で、シンハラ人やスリランカ政府の側に同情的な思いを今まで持ってきたけれども、フランシス神父の特集番組を見ていると、LTTEはろくでもないとしても、それに巻き込まれた一般のタミル人の人々が本当に気の毒だと見ていて思わざるを得なかった。
銃弾を受けて九死に一生を得たタミル人の女性の人たちの証言なども番組では映っていた。
なんとも、どちらが一方的に正しいとも言えない歴史が背景にあり、そしておそらくはLTTEに多くの非があった歴史なのだろうけれど、十年以上が経った今もフランシス神父や四千名以上の人々の消息が不明というのは、スリランカ政府にとって不名誉なことであり、軍の意向や威信の問題があるとしても、厳正に調査がされて、2009年にその時に何が起こったか、きちんと解明されるべきだろう。
特に、日本のようにもともとスリランカへの関心が一般的に薄く、仮に関心を持っていたとしても、主に同じ仏教国という立場からの関心が主である場合、十年前のこの事件は、あまり関心を持たれないことなのかもしれない。
しかし、隠されたものは必ず明るみに出るわけで、シンハラ人とタミル人の本当の意味の和解を実現していくためにも、フランシス神父らのその後について、きちんと政府や軍当局がこれからでも速やかに明らかにすることを、番組を見ていて願わざるを得なかった。