- 作者: 遠藤周作
- 出版社/メーカー: ぶんか社
- 発売日: 2009/02/03
- メディア: 文庫
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とても面白かった。
実は、この小説、もうずいぶん昔、私が高校生だった頃、Y先生という先生に、何か面白い文学作品はないですか?と尋ねたら、自分はあんまり文学は読まないけれど(数学の先生だったので)、遠藤周作の『おバカさん』という小説は、なんだか心に残っているなぁ、と話してくれた。
へえ〜、そうですか〜、と答えつつ、自分から尋ねながら読みもせずにかれこれ十数年経ってしまったが、やっと今読んだ。
つい最近、『深い河』を読み直して感動し、ある方から、その中に出てくるガストンさんという登場人物が、この『おバカさん』に登場していると聴いたことも大きなきっかけだった。
読み終わった感想は、とても読みやすく、面白く、かつ、不思議と心に残る小説だった。
「でもガストンは人間を信じたかった。この地上の人間がみんなナポレオンのように利口で、強い人ばかりではないと思った。この地上が利口で強い人のためにだけあるのではないと思った。
自分やこの老いた犬のような―
弱くて、悲しい者にも何か生きがいのある生き方ができないものだろうか…。
あの空の星のなかにもきっと自分たちと同じような星があるにちがいない。鋭い光を放つかわりに、弱々しい、しかしやさしく光る星だってあるにちがいない。意気地ない自分だが懸命に生きれば、そんな星の美しさのひとかけらでも奪うことはできないかしら…。」
(110頁)
「素直に他人を愛し、素直にどんな人をも信じ、だまされても、裏切られてもその信頼や愛情の灯をまもり続けていく人間は、今の世の中ではバカにみえるかもしれぬ。
だが彼はバカではない…おバカさんなのだ。人生に自分のともした小さな光を、いつまでもたやすまいとするおバカさんなのだ。」
(293〜294頁)
この二つの文中の言葉は、珠玉の言葉と思った。
また、ガストンさんの、「これが私の決心。あなたを捨てない。ついていくこと。」という言葉には、とても感動して、これこそが、人が心のどこかでいつも探し、渇いていることなのだと思った。
ユダヤ教や初期仏教が非常に精緻な優れたものであるのに対して、一見単純に見えるキリスト教や浄土真宗が深く心をとらえてやまないのは、上記のことをシンプルに中心にしているからなのだと思う。
おそらく、ユダヤ教も初期仏教も、本当はこの心が真髄にはあったし、あるのだと思うが、このことほど、ともすれば人が忘れてしまいがちな大切なことはないのだろう。
そして、キリストや法然・親鸞という人たちは、このこと一つに生きた生き方だったのかもしれない。
多くの人におすすめしたい、今なお新しい、不朽の名作と思う。
なんとなくなつかしいような戦後の頃の雰囲気もいいと思う。