- 作者: ヨヘベッドセガル,母袋夏生
- 出版社/メーカー: ミルトス
- 発売日: 1991/12
- メディア: 単行本
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とても面白かった。
どの物語も面白く、ためになったけれど、中にも印象に残ったのは、以下の三つの話だった。
一つは、ローマ皇帝のティトスが、イスラエルを戦争で倒して神殿を破壊した時のこと。
ティトスは、神など無力なものだ、神の神殿を倒して思うがままに破壊したのだから、自分こそが真の神だ、とおごりたかぶって豪語した。
すると、それを見た神が、蚊を一匹放って、その蚊はティトスの鼻の穴から入って脳みそに達した。
それ以来、ずっとティトスは頭痛に悩まされ、その頭痛は徐々にひどくなっていった。
どんな医者が見ても原因がわからず、治療できなった。
鍛冶屋の側を通りがかった時に、大きな音に驚いて蚊が一時的に動きをやめた時だけ頭痛が止まった。
そのため、ティトスは四六時中鍛冶屋を近くに置いて、大きな音で作業させて、その音が止まったらまた頭痛に悩まされた。
頭の中に何かがいるらしいということで、頭を切開する手術を行ったが、その手術で死んでしまった。
しかし、頭を開けたところ、鳩ぐらいの大きさになった蚊が一匹頭の中にいた。
との御話。
おそらくフィクションのユダヤの伝説かもしれないし、実際にそんなことがあったわけではなかったのかもしれないが、人間など、ちょっとした具合で、本当にどんなに権力があっても少しも幸せを楽しめないようになりうるということを、とてもわかりやすく伝えるエピソードと思う。
二つめに印象深かったのは、こんな話。
ある貧しいラビ(ユダヤ教の学者)が街を歩いていたら、貧しい物乞いが現れて、恵んでくれるよう頼んできた。
ラビは、半銭しかないが、これでいいか?とたずねると、物乞いは、自分も半銭だけ持っているので、これを合わせると一枚のコインになって今日の家族を養うだけのパンを買えます、ありがとうございます、と言った。
ラビは、自分が持っている分を惜しげなく相手に与えた。
その夜、そのラビは夢を見た。
敵に襲われ、海に突き落とされ、自分の先生である徳の高いラビが手を伸ばして自分を助けようとするが、その先生ですら自分を助けることができなそうだった。
その時、今日、半銭をあげた物乞いの人が現れて手を伸ばして自分の手をつかみ、海から引きあげて助けてくれた。
夢から覚めて、その夢を考えて、この世を去った後の裁きなどでは、自分の先生すら救えないようなことから、わずかな善行の功徳が自分を救ってくれるということに思い至り、実は自分が物乞いを助けたのではなく、物乞いの方こそ自分が救われる善行をさせてくれるきっかけを与えてくれたのだと気付いた、という物語。
みっつめに印象深かったのは、ある貧しいラビがそのおばあさんと二人で暮らしていた。
ユダヤ教は安息日に少量のワインを儀式に使うのだけれど、今までなんとか工面してきたワインを、その時の安息日には貧しくてどうしても調達できなかった。
ラビが仕事で出かけている間、おばあさんはなんとか孫のためにワインを調達してあげたいと思い、何もかも売り払ってしまって家にはほとんど何もなかったが、ただ一つ大事に持っていた自分の立派な帽子があったことに気づいた。
それを売りに行ったが、足元を見られて、わずかなお金にしかならず、そのわずかなお金で買えるだけのわずかなワインを買って帰った。
ラビが家に帰ると、ワインがあったので驚いたが、と同時に、おばあさんの帽子がなくなっていることにも気づいて、すべてを悟った。
しかし、おばあさんは何も言わず、ただにこにこしているだけだった。
その様子を見た神様は、この二人の心に心をとめて、それからは幸運がその家に向くようになり、おばあさんが亡くなる時には三千樽のワインが地下室にあるぐらいの金持ちになったそうである。
三つとも、心に残る話だった。
他にも、いろんな勇気や人間としての道徳を教えられる物語が多かった。
ユダヤの昔話は、本当に面白いと思う。