単語よりも文体の未熟さが問題

安倍首相、FB書き込みが波紋
http://mainichi.jp/select/news/20130629k0000e010189000c.html



内容についてよりも、その文章の稚拙さに驚いた。


以下の文章を、安倍さんが書いたとのこと。


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渋谷には本当に沢山の皆さんが集まって頂き感激しました。聴衆の中に左翼の人達が入って来ていて、マイクと太鼓で憎しみ込めて(笑)がなって一生懸命演説妨害してましたが、かえってみんなファイトが湧いて盛り上がりました。ありがとう。前の方にいた子供に「うるさい」と一喝されてました。立派。彼らは恥ずかしい大人の代表たちでした。
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たとえば最初の一文は、同じ内容でも、正しい日本語ならば、以下のように書くべきだろう。


「渋谷での街頭演説には、本当に多くの方々が来てくださり、感激いたしました。」


あるいは、「渋谷での街頭演説には、本当に大勢の方に集まっていただき」だろう。


安倍さんの文章は、主語や助詞の対応も、敬語も不自然である。
美しい国」というわりには、美しくない日本語である。


次の一文、


『聴衆の中に左翼の人達が入って来ていて、マイクと太鼓で憎しみ込めて(笑)がなって一生懸命演説妨害してましたが、かえってみんなファイトが湧いて盛り上がりました。ありがとう。』


これも妙な日本語である。
まず、「(笑)」という表記の仕方は、砕けた仲間内のメールやネット掲示板ツイッターやブログなら、それはそれでかまわない。
しかし、一国の首相が、一応公的に発信するものにおいて、「(笑)」はいかがなものだろうか。
なんとも気持ちが悪い。


また、この一文も、仮に「左翼」という表現を使うとしても、正しい日本語にするならば、


「やや離れた場所で別の左翼系の方たちの集会があっており、憎しみのこもった口調で大音量のマイクを、さらには太鼓まで使用し、彼らとしては一生懸命にこちらの演説を妨害しているようでした。
しかし、そのことにかえって、こちら側は誰もが闘志をかきたてられ、私たちの演説会は盛り上がりました。
私の演説を聴くために来てくださった皆様、本当にありがとうございました。」


といった感じだろう。


どうも、安倍さんの文章は、主語と述語の対応が不明確だし、表現が洗練されていない。
いかに粗雑な思考を日頃からしているか、文体からうかがわれる。


最後の一文も、


『前の方にいた子供に「うるさい」と一喝されてました。立派。彼らは恥ずかしい大人の代表たちでした。』


ではなく、


「前方の集会の最前列にいた、まだ小さなお子さんが、「うるさい」と彼らを注意している様子が目に入りました。
まだ小さな子どもなのに立派だと思いました。
それに比べて、世の中には恥ずかしい大人もいるものだと思いました。」


といった文章になるだろう。


まず、『前の方にいた子供』というのが、誰の前にいたのか不明である。
おそらく、その大音量で離れたところで話している人々の前だったのだろう。
そうでなければ、彼らに聞こえるはずがない。
しかし、もしそうだとすれば、数十メートル離れた場所にいる安倍さんに、どうしてそのやりとりが聞こえたのか不明である。
あるいは、安倍さんの目の前にいる子どもならば、数十メートル離れた場所にいる彼らには、その『一喝』は全く聞こえないはずである。
この場合、『一喝』という表現は全く不適当である。


「左翼」というレッテル貼りもいかがかと思うが、そのことよりも、いい年をしたわが国の指導者が、このような稚拙な文章をとくとくと不特定多数に発信して恥じない現状をこそ、本当の意味で「美しい国日本」を目指す人は少しは憂いた方が良いのではないか。
野田さんの演説などは、それ自体日本語の手本になるような、堂々たる格調のあるものだった。
程度の同じものが共鳴し合うのがこの世の常だが、粗雑な思考の幼稚な日本語しか使えない教養のない人間は、野田さんよりも安倍さんに自分によく似たものを見出して共鳴するものなのだろうか。


私は、よっぽど御自身こそが、「恥ずかしい大人の代表」だと思う。