コーヘン 「タルムード入門 二巻」

タルムード入門〈2〉

タルムード入門〈2〉


面白かった。


ラビの言葉として伝わるもので、聖書の中の他の多くの預言者は、神と会ったとしてもガラス九枚越しのようであったのに対し、モーゼはよく磨かれたガラス一枚だけを通して神と顔と顔とを向かい合って出会っていた、という表現があり、なるほどーっと思った。
そうだったのかもしれない。


また、コヘレトの言葉の中の、太陽の下のものはすべて無益という言葉は、トーラーは太陽がつくられる以前に書かれたので、実はトーラーを賛美している、というラビの解釈には感嘆した。


また、ラビ・アキバは、雅歌は聖書の中でも聖なるもの、と言ったという話には、なるほどーっと思った。


箴言には、トーラーの知恵と世俗の知恵の両方が盛り込まれているという話も。


また、贖罪の一番の手段は、慈愛の行いだということや、
神殿崩壊後の犠牲のための牛の代用は、祈る祈りの唇である、という話は、なるほどと思った。


タルムードだと、結婚相手は生れる前から決まっているという記述もあるとのことで、興味深かった。


面白い話は、神は世界を六日間で創造した後は、縁結びの神となって働き続けているというタルムードの話があるそうである。
その話を聴いた、ある外国の権力者が、自分の奴隷の男女を一日で結婚させて、イスラエルの神はこんな簡単なことにずっと時間がかかっているのかと笑った。
しかし、一週間も経たぬうちに、無理やり結婚させた夫婦たちには喧嘩が絶えなくなり、どうにも解決がつかなくなった。
それで、この世にこれほど多くの夫婦がいるのに、ほとんどの場合は調和しているとは、イスラエルの神は本当にすごいとその権力者も感嘆した、という話も面白かった。


また、子どもたち(バニーム)は、築く者(ボニーム)であるという言葉があるそうで、子どもたちは未来を築く者だから、とても大切にしなければならぬとタルムードは至ところで丁寧に教えてあるそうである。


タルムードにおいては、世界は平安で祝福されるように神が意図したと記されているという話も、とても興味深かった。
ユダヤ教は基本的に、世界や人間や神への健康な信頼に基づく宗教なのだと思う。


また、道徳については、タルムードではトーラーの遵守を中心に考えるそうである。


そのうえで、さらに、「人間はいつも自分の造り主の精神から学ぶべきである。」と考えるそうで、神のような慈悲や正義の精神や働きを人も習い心がけるべきだと考えるそうである。


施しや、慈愛(ゲミルート・ハサディーム)が非常に強調され、重視されているというのも興味深かった。
また、タルムードでは、正直や、賢明な中庸も折に触れ、重視されているそうである。


さらに、清潔さを重視し、食事の前は必ず手を洗うことなど、かなり具体的に細かくタルムードに規定されているのも興味深かった。
以前、講演を聞いたことがあるユダヤ人のラビの方が、ユダヤ人が世界で一番清潔好きな民族だと思っていたら、日本に来て認識が改まりました、と言っていたことをふと思い出した。
そのラビの方によれば、日本が一番清潔好きで風呂好きで、ユダヤ人が世界で二番目ということになるようである。


また、タルムードにはかなり具体的な、病気を治すための薬草や療養法が書いてあり、そのいくつかの事例が細かに載っていて興味深かった。
中世のヨーロッパで、ユダヤ人だけペストにかからなかったので、キリスト教徒たちからペストはユダヤ人が井戸に毒を投げ込んだから蔓延しているという噂をたてられ、多くの何の罪もないユダヤ人が虐殺されたそうだが、清潔で医学が発達していたのでペストになりにくかったというのが実際の所だったのだろう。


「ため息は身体の半分を破壊する。」
というタルムードの中の言葉も、とても印象的だった。
いろんな苦しいことや不条理なことが山のようにユダヤ人には降りかかってきたろうに、このように考えて、決してため息をつかなかったということを考えると、とても胸を打たれる。
自分もこの言葉を胸に刻んで、どんな時でもため息はつかないようにしようと読んでいて思った。


良い一冊だった。