- 作者: 上田和夫
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1986/11/20
- メディア: 新書
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ユダヤ人の歴史について、とてもわかりやすく、生き生きと書かれてあり、とても面白かった。
イスラム統治時代のスペインではわりと優遇されていたユダヤ人が、その後、どれほどひどい目に遭ったか。
また、中世ヨーロッパのペストの大流行の時期に、ユダヤ人が井戸に毒を投げ込んだとか、キリスト教を呪う儀式を行ったなどのデマが流れて、そのつど多くのユダヤ人が襲われて殺されたこと。
十字軍も、エルサレムに向かう途中、ユダヤ人の居住区を襲って略奪していくことがよくあったこと。
ポーランドでは比較的ユダヤ人が保護されていたが、ポーランド分割後、ロシア統治下では、ユダヤ人は二十五年間の兵役が課せられたり、権利が制限されたり、ポグロムという虐殺事件も頻発して、本当に散々な目に遭ってきたこと。
あげくは、周知のとおり、ナチスドイツによる大虐殺があったこと。
などなどの受難の歴史を見ていると、本当に気の毒な気がした。
にもかかわらず、それらの苦難を乗り越えて生き残り、歴史上希有なほどの宗教・哲学・文学・科学・芸術などのあらゆるジャンルに優れた天才を輩出し続けてきたその歴史は、本当にすごいと思う。
中世ユダヤの最高の神学者だったマイモニデスや、あるいは近代の作家のショレム・アレイヘムの小説や、モリス・ローゼンフェルドの詩などの本は、いつか私も読んでみたいと思った。
この本を読んで思ったことは、ユダヤ人というのも、大半はごく普通のただの人間であり、さまざまな偏見によって迫害を受けてきたのは、実に気の毒だということである。
そうした苦難の歴史の中で育んできた深い知恵や逞しさに敬意を払いつつ、偏見や誤解なく、同じ人間として、ユダヤ人の人々が遇される世界であって欲しいと思った。
あと、今まで知らなかったので意外だったのは、ソビエトの統治下には、ハバロフスクの近くにユダヤ人自治区があり、イディッシュ語も公用語して採用されていたというエピソード。
いろいろ知らないこともあるものである。