
- 作者: 関口義人
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2012/05/24
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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ジプシーの歴史について、多くの絵や写真とともに解説してあり、とても面白かった。
ジプシーは、7〜10世紀頃、インドから出発し、アルメニアやトルコやルーマニアを経て、ヨーロッパにも広く移動し続け、ヨーロッパからアメリカやブラジルなどにも渡って今日に至るそうである。
ヨーロッパにいるジプシーはロマ、中東や北アフリカのジプシーをドムというそうである。
ナチスドイツによって、二十五万から六十万人ぐらいのジプシーの人々も強制収容所に送られて殺害されたそうだ。
ユダヤ人虐殺は有名だし、ジプシーも弾圧を受けたことは聞いたことがあったけれど、少なくとも二十五万以上とは、なんともひどい話だとこの本を読んであらためて思った。
ナチスだけでなく、十六世紀以降、ヨーロッパのあちこちで、ジプシーはゲットーに隔離されたり、強制的に定住させられたり、あるいは捕まり次第処刑などの場合もあり、迫害や追放の目にあってきたようだ。
リベラルな価値観やマイノリティの尊重ということは、ちょっと時代の歯車が狂うと、簡単に失われてしまうものなのだと、戦間期ドイツなどの歴史を見ているとしみじみ思われる。
経済的にその国が苦しくなると、えてしてそうなりやすいようだ。
今後の日本も経済的に苦境にあるだけに、これらの歴を鏡に気をつけた方がいいかもと読みながら思った。
同じくヨーロッパや中東で、マイノリティとして存在し続けたユダヤ人は、膨大な文書や書物を生み出し残しているのに対し、ジプシーはほとんど自らの記録を持たず、大半は外部からの記録や調査によってしか歴史や記録がわからないようである。
ただ、音楽や芸能に関しては、ずっと関わってきたようで、しばしばすぐれたミュージシャンを輩出してきたようだ。
いつかいろいろ聞いてみたいものだ。
ちなみに、ヨハン・シュトラウスやチャップリンは、ジプシーの血を引いていたそうである。
オーストリアのマリアゼルや、フランスのサント・マリー・ド・ラ・メールなどがジプシーにとっての聖地で、多くのジプシーが巡礼に行くということも興味深かった。
キリスト教の聖人の祝祭を、イスラム教徒になっているジプシーも祝うという話も興味深かった。
非定住や遊動や、自らの記録をほとんど残さない、というのは、なかなか文明社会に慣れてしまった我々には想像がつかないし、不安定な印象を受けるけれども、本人たちは案外と自由なのかもしれない。
ユダヤとはまた別の意味で、興味深い、不思議な人々だと思う。