絵本 「トミーが三歳になった日」

トミーが三歳になった日―ユダヤ人収容所の壁にかくされたベジュリフ・フリッタ

トミーが三歳になった日―ユダヤ人収容所の壁にかくされたベジュリフ・フリッタ


本当に涙なしには読めない、すばらしい絵本だった。

この絵本の絵は、第二次大戦中に描かれたもの。
ゲットーに入れられて、絵を描く自由もなかったユダヤ人の男性が、自分の三歳の子どものために、せっせとスケッチブックにひそかに絵を描き続けた。


そのお父さんは、戦争が終わる少し前に、アウシュヴィッツ強制収容所に送られて死んでしまったが、壁にナチスに見つからないように隠してあったスケッチを、戦争が終わった後に友人が取り出し、その子が大きくなった後で渡したという。


この絵本は、その絵に、作家の人が文章をつけて絵本にしたもの。


ほとんど生まれた直後からゲットーに押し込められ、食べ物もろくになく、いつもひもじい思いばかりで、自由もない自分の小さな子ども。
その子が、世界を旅したり、おなかいっぱい食べる姿を想像でスケッチで描いたさまざまな絵を見ていると、父親の大きな深い愛情と、いかなる状況でも想像力や夢を持ち続けることの大切さを、言葉では形容できないほど思い知らされる。


その子は、お父さんもお母さんも収容所で失い、おじさんに育てられて、戦後は無事に成長し、結婚して四人の子どもの父親になったそうである。
小さい時は収容所で受けた心の傷のために大変だったことが若干あとがきに書かれているけれど、それでもちゃんと無事にまっとうに成長したということに、ほっとさせられる。
きっと、このお父さんの、絵に託した大きな願いや愛情があればこそだったのだと思う。