罪人のそそのかしに同意しないということ

箴言ヘブライ語原文も参照して読んでいると、和訳だとさほど気にせずに読み飛ばしてしまう箇所が、とても心に響いたりする箇所がある。


今日は、以下の箇所が心に残った。
NIVと新共同訳の下に、自分の訳を書いてみた。


My son, if sinful men entice you,
do not give in to them.
(Proverbs 1.10)


わが子よ
ならず者があなたを誘惑しても
くみしてはならない。
箴言 第一章 第十節)


「子よ、罪人たちがそそのかしても、同意してはならない。」
箴言 第一章 第十節 自分訳)


ベニー・イム・イェファトゥーハ・ハタイーム・アル・トヴェー


この中の、「トヴェー」という語は、英語だと”consent”つまり同意するという意味である。
アルがnotの否定・禁止なので、新共同訳だと「くみしてはならない」となっているところは、単純に訳せば「同意してはならない」だと思う。


また、「ならず者」と訳されている「ハタイーム」は直訳では「罪人たち」という意味のようだ。


「ベニー」は「私の息子」という意味。
いかに愛情をこめて、この言葉を呼びかけているかがわかる。


私は、この語句を読んでいると、ナチスに煽動されて大半の人々が間違った道を辿った時に、敢然と抵抗したごく少数の人々を連想させられた。
あるいは、アメリカにしろ、日本にしろ、その時々の歴史で、こうしたことはしばしばあったと思う。


世の中は、実に、ならず者や罪人がもっともらしい口で煽動し誘惑しそそのかすことに満ちている。
それに同意せず、断固として拒否することは、時に非常に難しい。


しかし、罪人のそそのかしに乗ることは、自ら破滅への道を突き進むことになるだろう。
一方、いかに苦しくとも、その道には同意せず、断固として拒絶することが、命の道なのだと思う。


日本の歴史で言えば、豊臣秀吉が朝鮮に戦争を仕掛けた時に、徳川家康は参加を拒否した。
表向きの理由は新たに国替えされた先の関東の経営のためということだったし、家康は家康で自己利益や豊臣がこれで失墜した後のことも考えていたのかもしれない。
しかし、当時においては、天下人の命令に従わないことは、それなりの勇気と決断が必要だったはずである。
豊臣が急速に滅び、徳川が最終的に天下を取ったのは、この時の判断にあったと思う。
家康が滅びずに栄えたのは、罪人のそそのかしに同意しなかったこの時の勇気と判断によるところも大きかったのではないかと思う。


リンカーンも、選挙に明かに不利とわかっていながら、あえて自らの良心を優先させ、メキシコ戦争を批判したり、奴隷制に反対する主張を愚直に述べていた。
そのことが、結果としては、リンカーンを大統領の座に押し上げた。
オバマさんも大多数がイラク戦争に賛成する中でイラク戦争に反対していたことが、のちに大統領に彼を押し上げる一つの要因になったと思う。


自らの判断力を日々に養い、要所要所では断固として間違っていることは拒絶すること。
それが独立自尊ということであり、知恵であり、人の道というものなのだろう。


カタカナ発音なので、たぶん本当の発音には程遠いものだと思うけれど、それでもカタカナのヘブライ語もどきでこの節を繰り返し唱えていると、切々とした古の賢者の愛情と願いのようなものが感じられてくる。
それはたぶん、何千年もさまざまな経験と知恵を踏まえた上での、戒めなのだと思う。