ペトラルカ風に ペトラルカへの手紙 その8

ペトラルカ風に ペトラルカへの手紙 その8


(韻文書簡風に)




愚にもつかぬ繰り言を、われ君に述べん。




嗚呼、明るい瞳はいまいずこ。


その昔(かみ)、汝(なれ)の笑顔、我にそそがれしこともあり。


白き手、頬、胸、肌の柔らかき、


それらは遠く去り、
我はひとり荒野にたたずむ。


緑濃き野原の、花を摘みつ、
木陰のハンモックに寝(いね)し、
のどかなる日々は、


幻の如く過ぎ去りて、


邯鄲の夢か、南柯の夢か、


あたかもたとうれば、
雨や風の強い日の、暗い海の浜辺に、
ひとりさまよえば、
砂に書いた文字も、砂の形も、瞬時に消え去り、変わり果て、
跡形もなくなり、足跡も消えていくように。


時の移ろうなか、汝の面影も消え果て、
燦々と照る夏の浜辺に、汝と戯れし日はもはや消えた虹の如く。


地上の愛というのは、かくも儚きもの。
たのみにならぬものを、たのみとした愚かさ。




君はラウラへの愛をひたすらに陳べにき。
我にラウラはなし。
我が愛は、すでに消え失せぬ。


もし我にもラウラの如き人のありせば、
いかばかり生きる甲斐のあらむか。


君よ、君にラウラありしは、いかばかりの幸いか!
君はそのことに苦しみ、『わが秘密』にてはその愛を捨てようとすらしていたようなれど、
かくも愛する人のいるは、無上の幸せなり。


いまや我に、生きた愛はなし。
残骸、廃墟、消え失せた浜辺の足跡。
愛よりも虚しさのみ。


人の愛は、なんと儚く、短いものか。
人の愛の、なんと頼りとならず、うつろい、かげりゆくものか。


されど我もまた、わがラウラを探し求めん。


人、愚かなれば、愛なしには生きれず。
人、愚かなれば、愛を求め、愛に生きん。
人、愚かなれば、ラウラなしには生きれじ。