ペトラルカ風に ペトラルカへの手紙 その3

ペトラルカ風に ペトラルカへの手紙 その3


(韻文書簡風に)



かつて、ほんの六十数年前、たった一国で、三カ月間も世界を相手に戦った。
そんな国が、かつて歴史上にあったろうか。
ドイツすら降伏した後に、たった一ヶ国で、世界を相手に。


なるほど、愚行かもしれぬ。
しかし、同盟国を裏切ることなく、最後まで意地を貫いた勇武は、
万世に語り継ぐべきもの。


しかも、廃墟と化し、焦土と化した敗戦の憂き目から、
極めて短期間に立ちあがり、
再び豊かな平和な国となった。
そんな国がかつて歴史上にあったろうか。


貴殿のうたいしイタリアや古代ローマも偉大なれど、
わが日本の偉大さも、それに優るとも劣らじ。


国土のあちこちに清冽な小川が流れ、豊かな森があり、
よく耕された田があり、葦原の瑞穂の国、
神仏に敬虔に、質素にして剛毅なる武士道。


世界の大半が欧州列強の植民地と化した時、
一国にて独立を保ち、大国をも撃破し、
アジアの人々を奮起させた。


嗚呼、かくもこの世界の歴史に鮮やかな光芒を放ったわが国、
誇り高きものであった日本。


それが今やなんとしたことか。
誇りを失い、自信を無くし、己を見失ってしまった。


強きに靡き、弱きを挫くことに加担し、
独立を求めず、自由を希求せず、
唯々諾々と、星条旗に屈する。


内に争い、上を罵り、下を搾取し、
金銭ばかりに狂奔し、


美しかった山河は醜い欲望によって切り開かれ、
コンクリートに塗り固められてきた。


歎いても歎き足りず、
怒っても怒り足りず。


そのうちに疲れ果て、
はや魂は麻痺しはてぬ。


貴殿がイタリアを歎いたように、
私も日本を歎く。


しかし、イタリアが再び光を放ったようには、
わが日本は光を放つ時は再びあるのだろうか?


徳への希求も、国土への愛も、
誇りや自信も、真理への燃えるような憧れも、


いったい我らにはたしてあるものや。
魂に火がつくのはいつなりや。


外の蛮族が長くいるうちに、
内の人々まで野蛮と化した。


万葉や古今の雅は遠く去り、
武士の徳も廃れた。


なるほど、ただ歎いても意味はない。
できるところから、できる限り!