ハワード・ジン 「学校では教えてくれない本当のアメリカの歴史」 下巻

学校では教えてくれない本当のアメリカの歴史〈下〉1901~2006年

学校では教えてくれない本当のアメリカの歴史〈下〉1901~2006年



上巻に引き続き、下巻もとても面白かった。


二十世紀初頭のアメリカでは、労働組合の運動が盛んに行われ、IWW(世界産業労働組合)が果敢にストライキゼネストを行っていた。
アメリカ社会党も非常に大きな勢力となっていた。


しかし、政府は、さまざまな方法でそれらの動きを圧殺しようとした。
特に、第一次大戦によって、国をあげての愛国主義的ムードをつくりだし、戦争反対者を取り締まるスパイ法を制定して、それらを巧みに利用して労働運動や社会党をつぶしていった。


それでも、1919年にはシアトルでかつてない規模のゼネストが行われたりした。


社会党は分裂もあって衰退していったが、その後、アメリカでは共産党が力を地道に伸ばし、労働運動などでも大きな力を発揮していった。


大恐慌によってアメリカは深刻な失業や貧困問題が起こり、さまざまな抗議運動も非常に活発となったが、再び体制の側は、ニューディールによる修正資本主義と、第二次世界大戦での挙国一致ムードの創出によって、体制の危機を未然に防いでいく。


大戦後は、冷戦構造を演出し、共産主義の脅威を喧伝して、徹底して共産党共産主義者が弾圧を受けた結果、50年代にはほとんどラディカルな勢力は窒息し、消滅した。


しかし、60年代には、黒人やインディアン、女性の権利などを求めた運動がかつてなく進展し、ベトナム反戦運動も盛り上がった。


著者のハワード・ジンは、それらの民衆の抵抗の歴史に光を当てつつ、戦後のアメリカが、いかに共和党民主党も、軍事覇権を追求し、社会保障には力を入れず、貧困や福祉の問題にはあまり力にならないという点で似たようなものだったかを、鋭い筆致で指摘する。
レーガンやブッシュにおける貧富の格差の拡大にはもちろんのこと、ハワード・ジンは、カーターやクリントンに対してもなかなか手厳しい。


そのような中で、児童の食糧事情についてのエデルマンの啓蒙活動や、環境保護運動、反WTOのデモや、湾岸戦争イラク戦争への反戦運動など、抵抗の運動はさまざまな形で80〜2000年代も行われ続けてきたことをハワード・ジンはわかりやすく浮き上がらせる。


なるほど、こういう流れの中に位置づけることができるのかと、いくつか記憶にあるかつての出来事も思い出しつつ読んだ。


アメリカは、ハワード・ジンが指摘するような、一部の富裕エリートが権力を握り、戦争や貧困を再生産し続けるどうしようもない面もある。
その一方で、果敢に抵抗し、批判精神を発揮し、実際に世の中を変えようと人々に働きかけ続ける一群の人々が常に存在している。
この両面の歴史が、アメリカの歴史をつくってきたのだなぁと、あらためて思わされた。
そして、この「ふつうの人々の抵抗の歴史」こそが、アメリカの本当の活力と魅力の源なのだと思う。


著者のハワード・ジン自身も、黒人公民権運動やベトナム反戦に大きく関わって生きてきたそうである。


通り一遍では、本当の生きた歴史とは何かを教えてくれる、貴重な一冊だったと思う。


日本や、他の国々でもぜひこうした歴史書が書かれて、多くの人に読まれるようになって欲しいものだ。