絵本 「ぼくのものがたり あなたのものがたり 人種について考えよう」

ぼくのものがたり あなたのものがたり

ぼくのものがたり あなたのものがたり



とても良い絵本だった。


この絵本の文章を書いているジュリアス・レスターは、アメリカの黒人奴隷制の歴史の本や文学作品を書いている人物で、この絵本は、平明で単純な表現でありながら、そうした著者の思いや洞察が背後にこめられている。


著者が言うには、自分も、他の人も、人間はひとりひとり「物語」である。
生れた年月、場所、両親の生まれた年月や場所。
兄弟や家族親戚や友人たち。
自分が好きな食べ物や、好きな色や、好きな時間や、趣味。
国籍や宗教。
他にもさまざまなことが、その人の「物語」をつくっている。


その中で、「人種」という物語がある。
そして、人種について、ある人々は、他の人種を劣ったものだと述べたり、自分たちの人種がすぐれていると述べたりする。


しかし、それは自分という個人の物語への自信がない不安の裏返しではないかと著者は問う。


実際は、自分の目の下のあたりを指でそっと押せば、誰しも同じかたさを感じる。
誰の皮膚の下にも、骨がある。


皮膚というの単なる包み紙であり、その下には、誰しも同じ白い骨がある。
人間というのは、包み紙をとれば、皆同じようなものだ。


その上で、じっと耳を傾け、聞いてみなければわからない物語が、一人一人にある。


人種ということで、包み紙のみを見て、ひとりひとりの物語を聞こうとしない「物語」と、包み紙の下にある同じものを見た上でひとりひとりの「物語」に耳を澄ませる「物語」と、あなたはどちらの「物語」を生きることを選びますか?
という著者の問いは、とても深い、心に響くメッセージだった。


日本人は、アメリカに住んでいる人ほどは、日ごろあまり人種について考えずに済むのかもしれない。
しかし、だからといって、本当にひとりひとりの「物語」に耳を傾ける姿勢がアメリカよりも良くできているのか、包み紙の奥にある同じものをきちんとわかっているのかといえば、若干疑問もある。


この本は、日本人にも、場合によっては日本人にこそ、広く読まれるべき本だと思う。