- 作者: 近藤恒一
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1989/09/18
- メディア: 文庫
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とても面白かった。
ペトラルカが書いたさまざまな手紙が収録されているのだけれど、ペトラルカにとっては書簡の形式もまた重要なひとつの文学や表現の形式だったらしく、必ずしも実際に生きている人にだけではない、千年以上昔のキケロに宛てた手紙や、後世の人に対して自分の人生を語っている手紙などもあって、とても興味深かった。
私も、いまいる人にあてての手紙ももちろん大事にしつつも、ペトラルカがキケロに書いたように古代の賢者や、あるいは後世の人にあてて手紙を書いてみたら面白いかもなぁと思わされた。
また、ペトラルカが、魂については哲学、言葉については弁論術(レトリック)から学ぶことがあり、この二つを両方とも両立させる、という意図や意識を述べているのはとても興味深かった。
プラトンの『ゴルギアス』以来、哲学とレトリックの二つの伝統は対立や緊張関係をはらみがちなものだったけれど、ペトラルカはこの二つを両立させることを意図していたのだろう。
また、この本を読んでいて興味深かったのは、ペトラルカの熱烈な祖国イタリアへの愛情であり、古代ローマと直結するものとしてのイタリアのアイデンティティと、イタリアの現状の憂慮や憤激がよく伝わってきて、とても興味深かった。
コーラ革命への思い入れや幻滅もよく伝わってきた。
また、教皇庁の腐敗への批判の鋭さも興味深かった。
古代人の徳ある生き方を取り戻すことへの勧めと、現代人への違和感や批判というのも、なんだかよくわかる気がして、今の日本にあてはめても共感させられた。
「不屈の努力はすべてに打ち勝つ」
「第一の財産は魂の財産」
「魂こそ最も感嘆すべき偉大なるもの」
これらのメッセージは、本当に心に響いた。
時折また、自分自身にあててペトラルカが書いてくれた手紙と思って、折々に読み直してみたいと思う。