明治三年 十二月二十六日 「雲井党に対する判決」名簿

明治三年、雲井龍雄とその一党が、政府転覆を企てたということで逮捕され、十二月二十六日には判決が出された。
二日後の二十八日に、雲井龍雄は処刑されている。


今日、高島真さんの詳細な研究により、この事件は全くの無実の冤罪事件で、雲井たちにはなんらこのような刑罰を受ける理由がなかったことが明らかになっている。


ただ、この判決によって罪を宣告された人々の名前は、雲井龍雄と親しかったり、あるいは深い関わりのあった人々だったことは間違いない。
今となっては、名前と年齢と住所がこの判決文からわかるだけで、どのような人だったかほとんどわからない人も多くいる。


ただ、こうして、タイピングしながら丹念にこの名簿を見ていると、あらためて若い人々が多いのに驚かされる。
私よりも若い、二十代の人が実に多いし、中には十代の人もいる。


そして、驚くのは、「存命ならば」として刑が宣告されている人の多さ、つまり獄死している人の数の多さである。
おそらく、過酷な取り調べや拷問や、劣悪な牢の環境があったのだろう。
ある意味、安政の大獄をはるかに超える、ひどい出来事と思う。


それと、意外と、僧侶が多数入っていることに気づかされる。
どうやら、雲井は明治政府の廃仏毀釈集議院で批判していたようなので、そのことと関連していたのだろうか。


藩としては、会津や静岡(旧幕府)、松山や盛岡など、やはり佐幕派の藩出身の人が多いようだが、必ずしもそうとは限らず、水戸藩などもいる。


きっと、有為の、すぐれた若者たちが、この事件で非命に倒れたのだろう。
また、辛くも生き延びて、数年の懲役を経た人たちもいたはずだが、彼らはその後どのような人生を生きたのだろうか。
おそらくは、言葉少なに、ほとんど何も語らず、そして歴史に記録ものこさずに、しばらくのちに亡くなっていったのだろうか。


きっと、それぞれに、個性や夢や志があり、それまでに生きてきた人生の軌跡があった人たちなのだろう。
不思議なもので、名簿をタイピングしながら、それぞれの人の容貌や人となりが、なんとなく脳裏に去来するような気がした。


二度と、こんなことはあってはならないのだろう。
そして、後世の人間は、ひとりでも、これらの人々の名や志を語り継ぐことも、大事なのかもしれない。


安政の大獄大逆事件と比べて、この雲井事件は、今はほとんど知られることもなく、語られることもない。
しかし、その事件の深刻さも規模も、あまりそれらと変わらないだろうし、もし資料があるならば、雲井龍雄ひとりだけでなく、これらの人々についても、いつか詳細に掘り起こしていきたいものだと思う。





明治三年 十二月二十六日 「雲井党に対する判決」名簿



梟首
米沢藩士族       雲井龍雄   二十七歳



会津藩士族       原直鉄    二十三歳
同           簗瀬勝吉   二十六歳
米沢藩士族       南斎敬吉   二十九歳
元畠山長門守家来    三木勝    三十二歳
常陸真壁郡 横塚村   大忍坊源吾  三十三歳
羽州小国郷増岡村    増岡謇吉   二十六歳
越後蒲原郡白根村    星野弥吉   四十歳
            田中晋六郎  二十一歳
斗南藩士族       能見武一郎  
            自在院
草本願寺末      願龍寺慈観  五十一歳
磐城平藩        師岡千牧   二十九歳
水戸藩        茂木盛朴   二十八歳


准流十年
勢州白子村農      尾崎幸吉   二十七歳
水戸藩元卒族      茂木広次郎  二十四歳
外神田旅籠町四丁目   清水文吉   四十八歳
三州額田郡岡崎投町   誠言     四十六歳
静岡藩士族       長谷部 介  二十六歳
浅草徳本寺役僧     龍海     三十歳
斗南藩士        山田陽次郎  三十歳
松山藩        江忍之介   十七歳


徒三年
斗南藩士        堀江源之助  四十二歳
西紺屋町        松尾貞次郎  十八歳
静岡藩卒族       田村喜太郎  三十五歳
尾州中島郡片原一色村  大舜     二十五歳
野州安蘇郡足尾郷新梨子村 福田直右衛門 三十八歳
同 赤沢村        板橋忠八   四十二歳
下野国河内郡芹沼村    沼尾勝蔵   二十四歳
浅草御蔵構内       市川哲之助  二十八歳
深川御船蔵前町      芝田久太郎  三十五歳



杖七十
西紺屋町二十番地     松尾太兵衛  二十六歳
             同人母 よし 四十三歳
杖七十の処収贖金一両三分 龍海妻 たけ 二十二歳


存命ならば斬罪(牢死)
盛岡藩士族        北村正機   二十四歳
神田区元柳原町      小倉精一   二十一歳


存命ならば徒三年
日光県卒族        内藤長助   二十三歳
上州利根郡摺淵村     吉沢源六   五十四歳
日光県卒族        小林安次郎  二十歳
元加州藩         青山正之助  三十五歳
斗南藩士族        加藤竹蔵   三十五歳
野州足利郡小俣村     佐藤一馬   二十一歳
上総国夷隅郡貝掛け村   佐藤善吉   二十二歳
静岡県士族       水沢甲子太郎 十八歳
神奈川県土工       田中常吉   二十二歳
和歌山藩        長田恭太郎  二十八歳 (戸田恭太郎のことか?戸田恭太郎ならば、伊達轍之助の別名。元赤報隊
武州足利郡蕨宿         次助  二十八歳
赤坂田町四丁目      牧 妥一郎  二十歳
下谷豊住町        小林源太郎  二十七歳
野州赤沢村        星野五左衛門 六十四歳
            同人忰 理惣次 五十六歳


存命ならば斬罪
神田久右衛門町一丁目   寅吉     四十一歳
深川六間堀町       平野弥吉   四十七歳
松山藩         江 秋水  四十三歳
浅草田島町続       柏井 仁  二十九歳
下谷金杉村円光寺     篆瑞    四十六歳


存命ならば准流十年
静岡藩脱走        松前勇   二十三歳
元日光奉行配下      和田忠吉  三十八歳
常州茨城郡稲田村西念寺地中 泉兵衛  三十六歳