雲井龍雄 「述懐示佐藤某」(述懐 佐藤某に示す)

雲井龍雄の「述懐示佐藤某」(述懐 佐藤某に示す)をタイピングしてみた。

訳しながら、まるで今の日本に対して言われているような言葉だという気がした。

「和の一字」、日本国民はよくよくあらためて胸に刻むべきことなのかもしれない。




雲井龍雄 「述懐示佐藤某」(述懐 佐藤某に示す)


人情澆訛黠似猿   人情の澆訛(ぎょうか) 黠(かつ)として猿に似たり
何日復令風化淳   何(いず)れの日にか 復(ま)た 風化をして淳からしめん
什什玃拏伍伍離   什々 玃拏(かくど)すれば 伍々離れ
卒徒誰信将相尊   卒徒 誰か信ぜん 将相の尊きを
四海形勢人休語   四海の形勢 人(ひと) 語ることを休(や)めよ
蕭墻禍構可長歎   蕭墻 禍を構ふ 長く歎じべし
二柄今古非徒設   二柄 今古 徒らに設くるにあらず
請君勿懐婦人仁   請ふ 君 懐くなかれ 婦人の仁
砲法新古君勿擇   砲法の新古 君 擇(えら)ぶなかれ
剣技精粗君勿論   剣技の精粗 君 論ずるなかれ
衆煦漂山非山薄   衆煦(しゅうく)山を漂(うご)かすも 山薄(かろ)きにあらず
十夫撓槌為力均   十夫の撓槌も 力を為して均し
君不見孟軻兵要和一字  君見ずや 孟軻の兵要は 和の一字にあり
天時地利不肯言   天の時 地の利 肯(あへ)て言はず


(大意)


人の心の軽薄さや偽りがひどい時代となり、猿のようにずる賢い人々が横行している。
いつ、人の気風を正し、穏健な優しい心を社会に取り戻すことができるのだろうか。
こまごまとしたことで人々を強くとらえて引っ張っていこうとすれば、ばらばらと戦線から離脱して隊列を離れ去る人が多い。
目下の人たちの中できちんと目上の人を尊敬し信頼する人がいったいどれだけいるのだろう。
もうこの世の中の情勢を語ることを人はやめて欲しい。
内輪でもめて、相争って災いをつくっていることは、本当に嘆かわしいことだ。
韓非子が言う「二柄」、つまり臣下を統御するためにはアメとムチの二つが必要だということは、今も昔も理由がなく言われてきたことではない。
どうか、女々しい優しさにこだわらず、断固たる勇気ある処置をして欲しい。
また、軍備が日新月歩の時代においては、安全保障に関しては迷う余地はない。
さらに、技術的なことで、うまいも下手も気にすることなく、どんどん実行すべきだ。
多くの人の息を集めて吹きかければ、山も動くと言われている。
十人の力を合わせれば、千軍万馬に匹敵すると言われている。
あなたは聴いたことがないのでしょうか、孟子は「和」こそを大事だと説き、天の時よりも地の利よりも人の和を重んじ、そこにこそ力があると説いたことを。