「仏説無常経 偈文」
外事の荘彩は咸(みな)壊に帰す 内身の衰変もまた同じく然(しか)り
唯(ただ)勝法のみ有りて滅亡せず 諸の有智の人はまさに善く察すべし
この老病死を皆共に嫌ふ 形儀醜悪にして極めて厭ふべし
少年の容貌暫時(しばし)住さんも 久しからずして咸(みな)悉く枯羸するを見る
仮使(たとひ)寿命は百年に満つるとも 終帰(つい)に無常の逼(せま)るを免れず
老病死苦常に随逐し 恒に衆生のために無利となる
常に諸の欲境を求め 善事を行ぜず
云何(いかん)が形命を保ち 死の来り侵すを見ざらむ
命根気尽きなんと欲し 支節悉く分離す
衆苦死と倶なり この時徒らに歎き恨みむ
両目倶に上に翻り 死刀業に随いて下る
意、想並びに慞惶し 能く相い救済する無し
長喘胸に連なりて急に 暟気(あいき)喉中に乾き
死王司命を催し 親属徒らに相守る
諸識皆昏昧にして 行いて険城の中に入る
親知咸(みな)棄捨し 彼の縄の牽くに任せ去る
将に琰魔王に至り 業に随って報を受けんとす
勝因は善道に生じ 悪業は泥犁に堕す
明眼慧に過ぐる無く 黒闇に癡に過ぎず
病は怨家を越えず 大怖死に過ぐる無し
生有れば皆必ず死す 罪を造れば苦身に切(せま)る
まさに勤めて三業に策(むちう)ち 恒に福智を修せよ
眷属皆捨てて去り 財貨他の将(と)るに任す
但だ自の善根を持ちて 険道に糧食に充(あ)つ
譬えば路傍の樹の如し 暫し息(いこ)えども久しく停(とどま)らず
車馬及び妻児 久しからざる皆かくの如し
譬えば群宿する鳥の如し 夜聚(あつまり)て旦(あした)に随って飛ぶ
死して親知に去別し 乖離することまたかくの如し
唯(ただ)仏菩提有り 是れ真の帰仗処
経に依りて我れ略説す 智者善くまさに思ふべし
天・阿蘇羅・薬叉等 来りて法を聴かん者まさに至心に
仏法を擁護して長く存せしめ 各各世尊の教を勤行すべし
諸の聴有るに徒(ともがら)此に来至す 或いは地上に在り或いは空に居り
常に人世において慈心を起こし 昼夜自身に法依りて住せよ
願わくば諸世界常に安隱に 無辺の福智群生を益せむ
所有(あらゆる)罪業並びに消除し 衆苦を遠離して円寂に帰せむ
恒に戒香を用いて瑩体に塗り 常に定服を持して以て身を資(たす)く
菩提の妙華遍ねく荘厳し 所住の処(ところ)に随って常に安楽ならむ