「文殊師利一百八名讃」

『聖妙吉祥真実名経』の中の「文殊師利一百八名讃」の書下し文をつくってみた。




聖妙吉祥真実名経 文殊師利一百八名讃


「聖者文殊師利一百八名讃」


元甘泉馬蹄山中川守分真師姪智慧、訳す



真実一切解に敬礼す
最極清浄の土、真正の心    至尊の頂中を恒に頂礼す
一切の諸仏同じく教勅す    文殊の諸もろの名を我れ演説せん
妙色・相好・端厳の身     一切の色の中に最も尊きを為す
諸相と随好を能く解了す    文殊の勇猛は是れ真実なり
不思議を具え思想を断ず    芸よく広大の所より出ず
三身は貫穿して不思議なり   如是の意 量ること不思議なり
空性の定力 自然を以てし   空性の法 真実を具す
空自性 極楽を慕い      三有の法 空性を示す
一切解にして一切を観る処(ところ) 彼れと此れと一切部類の主なり
一切の有情の衆中の尊にして  一切の有情悉く敬礼す
一切の五趣にまた復(ま)た然り よく一切の諸もろの邪魔を摧く
他の怨敵を悉く殄滅す     能く師子吼し人中の尊なり
煩悩は柔軟にして諸悪を離れ  諸の障・垢・染を悉く皆除く
一切の有情を来って擁護し   如是に九有において解脱す
摸拶(あいさつ)を具し垂髮し 淨梵王宮中に住す 
数珠を手に捻じ器杖を持つ   浄と不浄とを方便により聚(あつ)め
美音にして文殊は恒に主と作(な)る  蓮華の成ず所 蓮華の根
金色の蓮華にして最も殊勝なり   蓮華の座は極広大なり
潔浄の曼陀華を執持し     吉祥にして善く住し勝(すぐ)れた意を具す
亦た是れ正覚 是れ独覚    亦た是れ先世に已に成仏せり
神通の自在を具え有し     是れ四真諦の教主なり
千眼を具え世間を護り     亦た是れ才を具し九有の主なり
亦た是れ各おのの有情の尊と蘭(な)り 才能は最極にして諸類の尊なり
亦た是れ獣王の尊に生まれる所なり かくの如く力を具え世を愍生す
諸類を巧みに弁じ悉く調伏す  仏子なり 是れ仏なり 是れ真仏なり
身は千日の光燦爛たる如く   亦た是れ満月・星の耀きの主なり
亦た是れ水神天王子      摩醯首羅大主王
亦た是れ娑竭諸龍王      亦た是れ衆蘊を具すものの主なり
天と修羅に非ず 主の種を具せり
地主耀首吧珊悉辺(三合)     諸もろの天は勇猛なる集会の尊なり
諸もろの天は聚集に恭敬し礼す   護界神中 離垢尊
世間において無漏の最も尊きを為す 世事を解し世間の尊なり
彼の慧解を具し真実なり      種種を行事し ならびに擁護し
諸もろの悪魔の党は敢えて觸れず  悉く甚深微細の法を解す
法師として親しく三事を引集し   三毒の箭を出だすこと医王の如し
降伏(ごうぶく)に難き者を悉く降伏し  智慧を具す者を能く了解す
世間を量るを具し能く事うる者にして    亦た是れ福慧如意の樹なり
菩提の枝葉と華にて荘厳し     解脱の果を熟さし、三事を集む
有情の同類を類に依って尊び    衆生の意に入って衆の意を奪う
梵行を解す者にして離垢尊なり   亦た是れ星のごとく曜(かがよ)う衆の主
亦た是れ忍辱大仙主        亦た是れ補処を具す王の位
亦た是れ十地の等覚の尊      有情の商主にして内を尊きと為し
最勝の教主にして涅槃の師     亦た是れ虚空地水の主なり
亦た是れ火風の性の主なり     亦た是れ真実如意珠なり
衆生を須(ことごと)く皆成就さす所にして 諸もろの壊あるを出でるを悉く敬礼す
猶お宝珠の如し 我れ敬礼す    文殊師利を我れ讃え説く
唵末遏警怛捺麻薩怛捺
かくの如き相好を讃説し已って   領解し心中に恒に誦持せば
一切の悪業は皆な遠離し      最極清浄の果を証得す
一百八名および余の名       丈夫三時恒に誦持せば
所生の意悉く心に随い       無疑の心中に 皆な証得す
殊勝の相好を憶持する者は     遠く無間業をすら悉く清浄す
諸もろの不清淨の悪業       如是に一切皆な除滅す
臨終に寿を捨つれば異方に往じ   悪相悪境もし現ずる時は
浄心を以て恒に憶持せば     勇猛の文殊を親しく見るを得
智を具うる人の中にて極清浄なり  誰か能く読誦し能く憶持す
もし仏果を証得するを要せば    疑心の中に証得を決す
梵に云く阿耶曼祖悉哩帝悉擔(二合)


此に云う聖者文殊師利讃
元甘泉馬蹄山中川守分眞師姪智慧訳す
敬礼す 壊有るを出で語の中に才を具す者を
諸もろの集衆の中に極殊勝なり  猶お満月の衆光を奪うが如し
無明煩悩を悉く清浄にす     文殊師利を我れ讃礼す
焔髪は分埵し極明にして顕なり  宝珠燦爛として体は端厳
眼目は紺青にして熾焔の身    文殊師利を我れ讃礼す
甘露の一味 深柔軟なり     入意の音声は響き亮(あきらか)なり
真実妙法の宝蔵         文殊師利を我れ讃礼す
娑婆世界の一切の処(ところ)に 誰か能く雨滴の数を量度す
煩悩垢染悉く棄捨す       文殊師利を我れ讃礼す
文殊の眼及び身色を観ば     亦た曼陀の如く観れども厭く無し
諸もろの法を鉢を以て供養を持す 文殊師利を我れ讃礼す
十方界の諸仏の処(ところ)に住し 広大の音声 常に讃歎す
有情の最極の本師        文殊師利を我れ讃礼す
聖者文殊を我れ讃歎す      如是に諸もろの福善を集むる所を
尽く法界の諸もろの有情に施し  速やかに涅槃の正路を証さん


(中略)


迴向文
吉祥の智と勇と識に帰命し  真実の苦の深義を詮演す
我れ今衆生に読誦し     同じく吉祥金剛の智を獲ん