渡部恒三さんの過去の発言について 

最近、民主党渡部恒三さんが、過去にいかに原発行政を推進してきたかということについて、以下のような文章が拡散されているそうだ。



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1980年4月8日の衆院商工委員会で 、質問に立った当時自民党所属の渡部氏はこのように発言した。

「脱石油のエネルギー開発、これは何といっても原子力が目玉になる。原発建設の一番大きな阻害になっているのは、安全性に対する国民の認識の問題だ。政府は原子力は安全であるということを国民にもっと知っていただかなくちゃならない」

原子力発電所の事故で死んだ人は地球にいないのです。ところが自動車事故でどのくらい死んでいますか。人の命に危険なものは絶対やっちゃいかんという原則になれば自動車も飛行機も直ちに生産を中止しろということになる」

次に1992年3月18日の参院予算委員会
当時通産大臣として原子力行政にたずさわっていた渡部氏の、鹿熊安正自民党参院議員に対する答弁。

鹿熊「チェルノブイリ事故以来、原発反対グループの言動は激しく、放置できぬ状態だ。こうした動きが国民に間違ったエネルギー観を植えつけることになりはしないか」

渡部通産相「一般的に、自動車が事故を起こした、こういうことになれば、人に殺傷を与えたとか物を破壊したとかということになる。そういう意味では、我が国の原子力発電所はただの一度も被害を与えたことはないわけであります」
原子力発電所の建設をされた地域の人たちは息子や孫の時代まで、おれの町に原子力発電所をつくってよかったと、国家にも貢献し、そして地域の発展にもつながるということで全力を尽くしてまいりたいと存じます」
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これだけ読めば、渡部さんがすさまじい原発推進派だったという印象を受ける。

ところが、実際に当日の議事録を当たってきちんと全文を見ると、若干印象は異なってくる。


まず、1980年4月8日の衆院商工委員会の発言は、実際は以下のもの。


http://kokkai.ndl.go.jp/cgi-bin/KENSAKU/swk_dispdoc.cgi?SESSION=27828&SAVED_RID=4&PAGE=0&POS=0&TOTAL=0&SRV_ID=5&DOC_ID=3293&DPAGE=1&DTOTAL=1&DPOS=1&SORT_DIR=1&SORT_TYPE=0&MODE=1&DMY=29332


「○渡部(恒)委員 当面脱石油のエネルギー開発、これは何といっても原子力が目玉になると思うのです。やはりその原子力発電所の建設の一番大きな阻害になっているのは、一番大きなというよりは、その全部の要件は、安全性に対する国民の認識の問題だと思うのです。政府は原子力は安全であるということを国民にもっともっと知っていただかなくちゃならない。確かにこれは、人の命は地球より重い。だから人の命に心配のある問題、これは慎重にして慎重でなければなりませんけれども、原子力発電所の事故で死んだ人は地球にいないのです。そうでしょう、大臣。知っていますか、死んだ人というのを。ところが自動車事故でどのくらい死んでいます。何十万人も死んでいるのだな。飛行機が墜落して死んでいるのもいるね。最近ずいぶん飛行機事故があるのですよ。ロッキードは事故はありませんけれども、それ以外の飛行機、ほとんど事故が起こっているのです。そうすると、人の命に危険なものは絶対やっちゃいかぬ、こういう原則になれば自動車も飛行機も直ちに生産を中止しろということになるわけですけれども、しかしもうわれわれは選挙区から東京に歩いてくることはできません。やはり多少危険でも飛行機に乗って、自動車に乗ってくることの便利さの方が、交通事故の危険さよりも自動車に乗ることの便利さの方を選択しているわけです。いまのままで石油に全部依存して、一体民族がエネルギーを確保して生きていけるのかどうかという選択になれば、やはり原子力発電所をつくらざるを得ないという選択をしているのでしょう。そのことの正確な認識を国民の皆さんに知っていただくことがこれを進める何よりの大事なことだと思うのです。大臣は、幸いに科学技術庁長官のときに政治生命を賭して原子力安全局をつくるのに情熱を燃やした記憶があるので、いま新エネルギー開発元年と言われるときに、この原子力に非常な深い学識と体験を持っておる佐々木通産大臣であるということは国民は幸せだと思うわけですけれども、これについての大臣の決意をお伺いしたい。」


たしかに、上記の発言はしているが、拡散されているものは、部分的に端折って、意図的に印象を操作しようとしている引用と思う。

ただ、渡部さんが当時は時代もあってこんなことを言っていたというのは事実とは言える。

しかしながら、一方で、 同じ日の同じ発言の中で、


原子力と並ぶものとして、当面は――将来は水素エネルギーの問題とかあるいは風力の問題、海水の問題、いろいろあると思うのです。しかし大きな問題では、あとはやはり石炭と水力だと思うのです。とにかく石炭に切りかえるのが一番早いことですね。それから安全性も比較的高い。問題も薄い。だから当面は石油火力を石炭火力に切りかえることが新エネルギー開発、また電気料金のコストダウン、こういうもので一番大きな問題があると思うのです。これはだれでもわかっていることだ。みんなが言う。ところが進まない。なぜ進まないか。一つは環境問題があると思うのです。石炭灰を捨てるところがないとか、あるいは管理型から安全型に変えてもらわないとできないとか、外国から輸入してくる貯炭場の問題とか。一日も早く石炭火力に切りかえるためにいま必要なことは何であるかお聞かせいただきたい。もし役所の方でこういうものが阻害になっていてできないのだということで、それは国会の先生方が反対したからなんだということを十年後に三百万人も死人が出たときに言われても間に合わないから、そういう問題があったらいまのうちに遠慮なく、失言なんということはありませんから、思ったとおり答えてください。」


「そこでもう一つ、これは一番大事な、人間というのはどうしても新しいことに目先が移って本当に一番大事なことを忘れやすいのですが、戦後日本の産業をこれだけ発展させた原動力になったエネルギーは水力発電なんですよ。戦後、地方の雪の深い山々に電源開発が行われて、そして発電所ができて、その水力発電が原動力になっているのです。いまエネルギーの安全性とかあるいはセキュリティーとか言われているけれども、これは原子力だって心配だ、ウランが海外から入ってこなくなればだめなんですから。石炭だって国内炭は二千万トンがやっとだというのですから、これも外国から入ってくる話なんです。国際情勢がどういうときになっても国民が本当に安心して使える電気は水力しかないのですよ。これから地熱がありますけれども、地熱はまだわずかだ。水力なんだ。ところが、最近私は水力発電についての関心が何か通産省でも薄れているような気がしてならないので、今度の予算では水力発電を思い切って考えるように要望したわけですが、まだ開発すれば水力発電所ができるところは二千カ所あるというのですが、それをやらないでおった。病院なんか人の命を預かるところですから、停電になった場合でも手術室の電気が消えて死んだなんというのでは困るので、自家発電というものを持っていますね。国際情勢がどうなっていくかわからないのですから、最小限度日本民族の生命の安全保障をするエネルギーと言ったら水力なんですよ。そういう意味で水力発電の重要性を改めて認識しなければならないし、二千カ所といわれる開発可能予定地、これは一日も早く開発を進めていただきたいと思っているのですが、これに対してのお考えをお聞かせいただきたい。」


といったことも言っている。
実際は、水力も重視していた。


次に、


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産相「一般的に、自動車が事故を起こした、こういうことになれば、人に殺傷を与えたとか物を破壊したとかということになる。そういう意味では、我が国の原子力発電所はただの一度も被害を与えたことはないわけであります」
原子力発電所の建設をされた地域の人たちは息子や孫の時代まで、おれの町に原子力発電所をつくってよかったと、国家にも貢献し、そして地域の発展にもつながるということで全力を尽くしてまいりたいと存じます」
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という箇所だが、これは相当に文章を端折り、主旨をゆがめている。

これは1992年3月18日の参院予算委員会のものだが、

実際は、


国務大臣渡部恒三君) まさに先生御指摘のとおりでございまして、専門的な必要があれば、政府委員に答弁させますけれども、放射能一つの問題にしても、我々がレントゲンで撮影をすることもこれは大変な量になっておるわけで、現実に原子力発電所についていろいろ報道をされますけれども、一般的に、自動車が事故を起こした、こういうことになれば、人に殺傷を与えたとか物を破壊したとかということになるので、運転しようと思ったときにガス欠で自動車が走らなかったという場合は、これは故障ということであります。そういう意味では、我が国の原子力発電所はただの一度もそういう意味の被害を与えたことはないわけであります。機械に事前に故障が発見されて事故に至るようなことは未然にすべて防いでおるわけでありますけれども、この故障が事故というようなことに報ぜられると非常に不安を与えます。
 私どもは、二一〇%原子力発電所については事故はあってはならないということのために全力を尽くして官民挙げて努力をしております用地元の皆さん方にも御安心を願い、また原子力発電所の建設をした地域の振興のために努力して、原子力発電所の建設をされた地域の人たちは息子や孫の時代まで、おれの町に原子力発電所をつくってよかったと、国家にも貢献し、そして地域の発展にもつながるということで全力を尽くしてまいりたいと存じます。


http://kokkai.ndl.go.jp/cgi-bin/KENSAKU/swk_dispdoc.cgi?SESSION=4132&SAVED_RID=2&PAGE=0&POS=0&TOTAL=0&SRV_ID=7&DOC_ID=600&DPAGE=1&DTOTAL=1&DPOS=1&SORT_DIR=1&SORT_TYPE=0&MODE=1&DMY=4497


という文章だ。

非常に恣意的に文章が端折ってあり、渡部さんの本来の文章の意図を損ねる不完全で誤謬のある引用ではなかろうか。

全くそうしたことを言っていないとは言えないが、実際の全発言やその前後の発言を合わせてきちんと見てみると、だいぶ印象は変わるのではないだろうか?

そもそも、渡部さんは、先の菅首相との国会の質疑応答で、


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 渡部恒三氏(民主=福島4区) 原発地域の皆さんが安心して暮らせるようにするのは、菅直人首相の責任だ。
 首相 一義的には東京電力に責任があるが、原発を推進する立場で取り組んできた国の責任は免れない。被害の補償に国としても責任を持たなければならない。
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(29日の衆院予算委員会での質疑要旨)
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201104/2011042900519
 
という発言を首相から引き出している。

さらに、渡部さんが一番目をかけている玄葉さんは原発再検討と新エネルギー政策を明言している。


原発増設 玄葉氏が再検討示す
http://news.mixi.jp/view_news.pl?id=1580676&media_id=4


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玄葉光一郎国家戦略担当相は23日、2030年までに14基以上の原子力発電所を新増設するとした国のエネルギー基本計画について、「14基造るという計画はあり得ない。大きな見直しを迫られる」と述べ、福島第1原発の事故を受け、再検討すべきだとの考えを示した。福島市内で記者団の質問に答えた。
 玄葉氏は「福島県をこれから太陽光、風力、水力といった新エネルギー、再生可能エネルギーの基地にするぐらいの意気込みが必要だ」と強調。国のエネルギー構造についても「再生可能エネルギーの割合が飛躍的に高まっていくことは間違いない」と述べた。 
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もちろん、渡部さんにも従来の原発行政の責任の一端はあるとは思う。
しかし、自民党の支持者が、自民党の責任を転嫁するためのネガキャンを渡部さんに執拗に必要以上に張っている傾向が、最近非常に多いように思う。

大事なことは、単なる拡散をそのまま鵜呑みにしたりそこから受ける印象に振り回されるのではなく、実際の記録にあたって確かめてみることと、今その人やその周辺が実際にどのような行動や発言をしているのかを正確に読み解くことではなかろうか。