ETV特集 「小田実 遺す言葉」

もう三年近く前だが、ETV特集で「小田実 遺す言葉」という小田実さんの特集があって面白かった。

http://www.nhk.or.jp/etv21c/update/2008/0309.html

(以下は、その番組を見た時の感想)



番組を見ていて印象にのこったのは、小田実さんはまなざしが菩薩のようにしっかりしている人だったんだなあ〜、ということだった。

晩年の、病床でのインタビューだったのだけれど、なんというか、これは一代の英傑の目だと思った。
まなざしが、本当に、しっかりした強いやさしい光を湛えていて、この人も菩薩だったんだなと感じた。

日本は本当はとても独自の価値のある国で、民主主義や自由主義に、平和主義を付け加えたという点で、特筆すべき価値のある国だとくりかえし語られていた。

戦後の日本は、産業構造の中心に、軍需産業がない、平和な産業構造の国になっている。
これは歴史的に見て、とてもすばらしい価値のあることなのだと。

敗戦で、日本は富国強兵とは違う国をつくろうと思ってきた、そのことはとても価値のあることだったのだと。

小田さんは、旧制中学の時に、大阪大空襲にあわれたそうで、その体験から「難死」の思想を説き続けてきた。
「難死」とは、不条理な、そして無意味な死を、人災によって強制されることを呼ぶそうである。

そうした「難死」に、誰をもあわせたくないという思いで、ずっと執筆活動や市民運動をされていたらしい。
ベトナム反戦運動ベ平連や、神戸震災後の市民立法などは、そうした思いからやむにやまれず起した、そして実際に世の中に大きな影響を与えた、実践と軌跡だったのだろう。

番組を見ていて、もうひとつ印象的だったのは、上記のようなことをインタビューに答えている中で、戦前の日本について語っている中で、「日本は富国強兵なんか目指さなければよかったのに」という言葉を、泣かんばかりに、涙を目にたたえてお話されていたことだった。

こういうのは、やっぱり、文章だけでは伝わらないのかもしれない。

「日本は富国強兵なんか目指さなければよかったのに」ということは、あの戦争を体験した人は、言葉にならない思いをこめて、思わずにはおれなかったことなのだろう。

そうした思いが、肉声や表情とともに語られるのでなく、文章だけになってしまったら、だんだんと風化してしまうかもしれない。

のちの時代の人間は、それらの思いを、単に字面の文章としてだけでなく、受けとめる必要があるのかもしれない。

あんまり小田さんの小説や本は、ほんのちょっとしか今までに読んだことがないけれど、そのうちいろいろ読んでみようかなと思った。