録画していたETVのこころの時代「水俣いのちの海のただなかで」を見た。
緒方正人さんと緒方正実さんの御話で、家族の水俣病による苦しみや死や、御本人の苦悩や体験を通じた御話をされていた。
実は私は、2013年に緒方正人さんの、2017年に緒方正実さんの講演を、それぞれ福岡でお聞きしたことがある。
どちらにも感銘をその時に受けた記憶がある。
ただ、月日が経つ中でせっかくの御話の内容を恥ずかしながらだいぶ忘れてしまっていた。
この番組を見て、あらためて考えさせられる深いことばの数々に胸打たれた。
緒方正人さんがおっしゃっていたことで、あらためて考えさせられたのは、水俣病は人間が人間を人間として見ていないところに起こったのではないか、ということだった。
そして、その背景には、魚などの生きもののいのちや存在を、ずっと無視してきた、そうした人間のあり方の問題もあったのではないか、ということだった。
つまり、近代の文明のありかたそのものを問い直すのが水俣ではないかということだった。
人間中心主義を問い直し、生命という基盤に立ち、組織や利益ではなく同じ人として接することの大切さを訴えるそのメッセージは、本当にともすれば近代においてなおざりにされ過ぎてきたことなのだと思われた。
緒方正人さんは自分自身の罪も深く見つめ、国家や企業の組織に対する怒りや怨みではなく、人間として一人一人に語りかけることや、共に立つ場をつくることの大切さに思い至るまでの御話をされていた。
緒方正実さんは、差別を恐れてずっと自身が水俣病の患者だったことを隠して生きてきて、やっと勇気を出して名乗りだしたら、行政から患者とは認められないと言われ、自分の人生が否定されたような悲しみに打ちのめされたことと、十年経ってから潮谷熊本県知事が謝罪して患者と認定された時の嬉しさを語っておられたけれど、これも人間としてきちんと向き合うかどうかという問題だったのだと思う。
このことは緒方さんたちだけの体験にとどまらず、本当にすべての人にとってとても大事な知恵というか、貴重なメッセージなのではないかと番組を見ながら思えた。
二十年ぐらい前に水俣には何度か行ったものの、それきりなので、また行ってみたいと思った。