録画していたBSドキュメンタリーの「ゴルバチョフ 老政治家の“遺言”」という番組を見た。
去年の制作の番組で、90歳になるゴルバチョフのインタビュー番組だった。
「大切なのは命であり、命をどう扱い、扱われるかということだ。」
というメッセージには、感銘を受けた。
二十年前に妻のライサを亡くしたことに関する話の中で、
「一人の女性を愛し、愛されること、それ以上に高尚なことが人生にあるかね」
と言っていたのにも、あらためて誠実な愛妻家だった様子が伝わって来て胸打たれるものがあった。
大統領を辞めた時、ゴルバチョフが持っていたのは質素なアパート以外財産らしいものはなかったそうで、本当に真面目な清貧な政治家だったのだなぁと感心させられた。
その後は、ずっと講演をたくさんこなし、講演料で家族たちを養ってきたそうである。
詩がとても好きで若い時からたくさん暗唱してきたそうで、会話の中に詩の引用や歌を混ぜながら話す様子も、印象的だった。
このような教養人は、なかなかもはや今の世には政治家になりにくいのかもしれない。
ゴルバチョフの祖父は死刑宣告を受け、あとで無実と分かり釈放されたものの、ひどい拷問にあったそうで、その祖父の思いの影響が大きかったそうである。
また、妻の母方の祖父は処刑されていたそうである。
革命やスターリン粛清の時期には、どの人の家族もそのような目に遭っていたのかもしれないと、聞きながらあらためて驚いたし、ゴルバチョフのペレストロイカの背景にはそうした家族たちの無念の思いがあったのだなぁと感じさせられた。
私は高校生の時に来日したゴルバチョフの講演を福岡で直接聞いたことがあり、たぶん当時は六十代ぐらいだったのだろうか、ゴルバチョフは今よりずっと若かった。
ゴルバチョフも年をとったなぁと番組を見ながら感じたが、激動の時代を経て、自分の思う通りには世の中が進まなくても、静かに運命を受け入れて自分なりの人生を生きている様子には、たいしたものだなぁとあらためて感心した。
ゴルバチョフのような人があの時期にソ連の指導者になったことは奇跡だったような気もするが、そのような奇跡はめったにないわけで、あんまり詩を愛する心もなくつまらない人間がこれからの時代は政治においてどこでも跋扈しがちなのだろう。
それはそれでいたしかたないことなのだろうけれど、やはり政治の世界にも、命を何よりも大切にし過去の人々の無念の思いを無にせず自由や正義をもたらそうと努める、そういう人が現れて欲しいようにも思えた。
それはかつてゴルバチョフがいたことを考えれば、必ずしも全く可能性が絶無というわけでもないのだろうとは思う。
https://www.nhk.jp/p/wdoc/ts/88Z7X45XZY/episode/te/371K5J4MLX/