林えいだい 「地図にないアリラン峠」

地図にないアリラン峠

地図にないアリラン峠

これはすごい本だった。
戦時中の朝鮮人強制連行、および軍属としてタラワ島で玉砕した人びとや、敗戦前後、樺太憲兵等によって行われた朝鮮人殺害事件など、歴史の闇に埋もれていた多くの出来事を、丹念な聞き取りにより記録にとどめている。

複数の証言を必ず取って、場合によっては事実とは言えない証言についても指摘している著者の姿勢は極めてフェアなものである。
そのうえで、なお否定できない、あまりにもひどい出来事の数々には、暗澹たる思いを抱かざるを得ない。

はじめてこの本で知ったのだけれど、福岡の海ノ中道に昔、炭鉱があったそうである。
海底の地層の石炭を採掘するため、トンネルが掘られていたそうだ。
そこでは、青い徴用を命じる用紙が来た朝鮮人の労働者も大勢働いていて、しばしばひどい虐待を受けていたそうだ。
ちょっとそれらの出来事には、絶句せざるを得ない。

また、筑豊の炭鉱では、戦時中、落盤事故があって、腹から腸がはみ出たりする大けがをした朝鮮半島出身の労働者がいた場合、どうせ治療しても治らないということで、その場で生きながら土に埋められる場合があったそうである。
なんともひどい話である。
戦前を礼賛する人って、そういうこと知ってるんだろうかとあらためて思わざるを得ない。

他にも、ともかく、あまりにもひどい多くの歴史が記されている。
重い一冊だけれど、多くの人に読み継がれて欲しい一冊だと思う。