林えいだい 「銃殺命令 BC級戦犯の生と死」

この本を読むまで私は全然知らなかったのだけれど、戦時中、折尾に俘虜収容所があり、アメリカ・イギリス・オーストラリア・オランダなどの捕虜になった軍人たちが収容されていたそうである。
炭鉱の労働に駆り立てられ、病気の時も労働を強いられたり、時には虐待を受けることもあったそうである。
その中で、オーストラリア出身のアービンという人物が脱走を図り、逮捕された。
上からの命令で、折尾の俘虜収容所の松山所長がアービンの処刑をさらに兵士に命令し、岩沼曹長らが実際に刑を執行し銃殺した。
日本の敗戦後、戦犯裁判が行われ、岩沼曹長・松山所長ら四人に死刑判決が下る。
岩沼曹長のみ、奇跡的に妻たちの助命嘆願が実り、死刑ではなく終身刑減刑され、十年後に釈放される。
しかし、その間の妻や子どもたちの苦労は並大抵のものではなく、釈放後も心身の疲労のため岩沼氏自身が社会復帰するのに相当な時間がかかった。
また、当時にしては捕虜の人々の待遇に配慮し、実際に捕虜の将兵からも信頼が厚く、戦争が終わった後は捕虜だった人々からサインを記入された聖書をプレゼントされたというクリスチャンの松山所長が、弁護士や本人や家族たちは助かるという見通しを持っていたにもかかわらず、死刑執行され、讃美歌を歌いながら刑場に赴いたという話はなんとも気の毒である。
林えいだいさんがあとがきの中で述べている、「わたしは戦犯を擁護するつもりはないが、彼らが国民の責任を一身に被って処刑されたのも事実である。平和に慣れっこになると、つい戦争の苦しさを忘れてしまう。私は、亡くなった方々のご冥福を祈らずにはいられない。」というのは、重い一言だと思う。
戦犯の人々やその家族の人々もまた、戦争さえなければあのような目に遭わずに済んだことを思うと、つくづく戦争というのは観念ではなく具体的なとんでもない悪事だと思わずにはいられない。
重いが、長く読み継がれて欲しい貴重な一冊だった。