牧美也子 「好色五人女」

「好色」なんてタイトルがついているけれど、今と随分意味が違ったのか、本当にどれも、命がけのひたむきな恋の物語だなぁと思った。

八百屋お七の相手だった男性が、あとから西蓮上人という立派なお坊さんになって多くの立派な土木工事を行ったという話は、恥ずかしながらこの漫画を読んではじめて知った。
よほど思うところがあったのだろう。

江戸時代の、やたらと厳しい道徳や掟の世界でなければ、今であれば、これらの男女は別に死なずに済んだのかもしれない。
しかし、逆に言えば、現代は、なかなかこれほどのひたむきな恋はあんまりないのかもしれない。

恋は愚かしい狂気と言いつつ、若干うらやましいような、まぶしいような気もする。
が、甘美というのとは程遠い、なんともはや恐ろしいものだともあらためて思う。

江戸時代の日本の庶民は、たいていはのほほんと能天気に過ごしていたんだろうけれど、たまにこういう生命の火花を激しく燃やすこともあった、ということなんだろうか。
今の世は、おおらかさも、ひたむきさも、どうも珍しくなってしまっているとしたら、人間としてはあまり面白くなくなっているのかもしれない。