- 作者: ニコラス・デ・ラーンジュ,柄谷凛
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2002/02/18
- メディア: 単行本
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一人で書いたとは思えないほど、多岐にわたる分野を網羅して書かれていて、とても面白かった。
ユダヤ教の祈祷書や、神学、歴史、現代における取り組みやさまざまな流れと方向性、音楽や聖歌などが紹介してあり、とても興味深かった。
祈祷書はいつか手に入れて読んでみたいし、聖歌や音楽などもぜひ聴いてみたいと思った。
特に興味をひかれたのは、イツハク・ルリアという中世の思想家。
スペインからユダヤ人が追放になった後に、その大きな衝撃や危機の中から思想を紡いだそうで、「世界の修復」ということがテーマになっている。
ヘブライ語では修復は「ティクン」、世界の修復は「ティクン・オーラム」というそうで、もともとはカバラにもとづき、自分たちが今、悪をやめて善をおこなうことで、断片化されたこの世界を修復し、神の光を取り戻し、メシアの到来を早く招くことができる、という考え方だったそうである。
現代では、イスラエルなど、特にカバラとは関係なく、この「ティクン」という概念にもとづいて、植林植樹やエコロジーや緑地化運動が盛んに行われているそうだ。
今の日本も、「ティクン」こそが大切なのかもしれない。
また、ヘルマン・コーヘンというユダヤの宗教哲学者は、出エジプト記の三章に出てくる「ありてあるもの」と訳される、神の名前のところを、「あるがままにあるもの」と哲学的に解釈した、という箇所が、とても興味深かった。
一方、ブーバーは、同じ箇所を、むしろ「臨在」を強調する方向で解釈したという話も興味深かった。
これは、日本の浄土教における自然法爾と光明にも、どこかしら相通じる話のように思えた。
それにしても、全人口からいえば少ないユダヤ人の、なんと膨大なすごい伝統の蓄積があることか。
たいしたものだとあらためて感嘆した。