エリ・コーヘン 「大使が書いた日本人とユダヤ人」

大使が書いた日本人とユダヤ人

大使が書いた日本人とユダヤ人


かつてイスラエルの駐日大使を務めたエリ・コーヘンさんが、日本の文化とイスラエルの文化についての考察をまとめた本。
とてもわかりやすく、面白かった。

コーヘンさんは、若い頃から空手を習い、相当な達人だそうである。
ある時、エルサレムでテロリストが満員のバスに手榴弾を投げ込もうとしているのを見て、咄嗟にその場に突進し、空手でテロリストの腰を攻撃し一撃で気絶させ、バスの乗客全員の命を助けたという逸話の持ち主(ただし、手榴弾の爆発により、コーヘンさん自身は背中に重傷を負い、取り除けなかった破片が今でも痛むことがあるそうだ)。

宮本武蔵五輪の書が愛読書だそうで、普通の日本人よりもよほど日本の精神に造詣が深いと思われる著者の言葉は、どれも含蓄に富む。

聖書の解釈も深くて、ヤコブが天使と格闘したエピソードについて、金やエサウとの闘いへの加勢を求めるわけでもなく、ただ祝福を天使に求めたのは、格闘する敵も本当によく闘った相手からは祝福を求めることができるようになる、ということだというのは、なるほどーっと思う解釈だった。
対戦相手は、「ふさわしい助け手」となりうる、という話も興味深かった。

また、ダビデゴリアテとの闘いのエピソードについても、ダビデが神に全託する信仰を持ち、その信仰から力を得て、勝利の確信をもって戦いに臨んだことを指摘していて、なるほどと思った。
五輪の書についても、絶対の勝利を確信する信仰にも似た境地こそが重要と述べていたが、たしかにそうかもしれない。

ヨム・キプールや、アセレット・ヤメイ・テシュバーという十日間の集中的なユダヤ教の断食について、空手の集中稽古のようなものだという説明をしている箇所も面白かった。

また、日本の武士道とユダヤ教の、祖国への献身や敢闘精神や美しく散華する美学を比較し共通点を指摘しているところも面白かった。
たしかによく似ているところが多いのかもしれない。

神道についても、多神教と言えば一神教ユダヤ教と全然異なることになるが、八百万の神々をすべての場所に神が臨在し遍在していることのひとつの表現と思えば、共通点は多いという指摘も面白かった。
四国の剣山や、長野の諏訪神社など、ユダヤ教と不思議な符号のある伝承や場所についての指摘も興味深かった。

あと、経済も結局は「人間の力」であり、資源も乏しいイスラエルと日本のどちらも技術や経済で高いレベルを達成してきたのは「人間の力」だと指摘しているのは、全くそのとおりと思った。

外から見た方が日本のことはよくわかるのかもしれないが、武士道や皇室や神道といった要素のユニークさを指摘し、確固としたアイデンティティを日本が本当は持っているという著者の指摘は、なかなか面白かった。

わかりやすくてすぐに読める本で、もう一度日本を考える良いきっかけにもなるように思う。