ジャクリーン・ウッドソン 「レーナ」

レーナ―

レーナ― "I Hadn't Meant to Tell You This" YA文学館・翻訳シリーズ 2


胸に響く良い小説だった。


カテゴリーとしては児童文学ということになるのだけれど、とても児童文学とは思えない重いテーマの作品だった。


主人公のマリーは、十二才の黒人の少女。
良いお父さんとお母さんで幸せに暮らしていたのだが、お母さんが急に家を出ていってしまった。


マリーの母は、年をとらないうちに自分の人生を本当に生きたいという願望にとりつかれて、夫と子どもを置いて、世界への旅に出て行ってしまった。


父もマリーも悲しみ、マリーは自分ほど不幸な人間はいないと思っていたが、


学校のクラスに、レーナという白人の女の子が転校してくる。


レーナはいつもみすぼらしい貧しい服を着ていて、周囲の子どもたち、特に黒人の子たちからは遠ざけられていた。


しかし、レーナも母親がいないということから、マリーはいつしかレーナと友達になっていく。


そして、レーナは実の父親から性的虐待を受けているということを知る。


レーナには幼い妹がいて、以前施設に相談したら、妹と引き離されて里子に出されたため、妹と一緒にいるためには警察に言うわけにはいかないという。


いろいろと問題を抱え、大変なしんどい思いをし、時にはケンカすることもありながらも、友情をはぐくむ二人。


レーナが実は絵が大好きで、将来は絵描きになりたいと思っていることもマリーはかなり経ってから知るようになる。


はじめは、公民権運動の時の思い出を語りながら白人なんかと付き合うなというマリーの父も、そしてマリーの元々の黒人の友達たちも、やがてレーナとマリーが仲良くしていることを認めてくれるようになる。


しかし、レーナはある日、妹を連れて家出し、それっきり会えなくなる。


レーナならば、きっとどこかでしっかりやっていくだろうと、マリーは思う。


そして、母親の勝手さや「未熟な願望」にも、それなりの理解と諦めと、それを乗り越えていかなくてはならないことをよく理解し、もう母の不在をいたずらに悲しむこともなく、自分は自分でしっかりと生きていこうという姿勢を身につけていく。


児童文学とは思えない重いテーマを、しかし決して暗いだけでなく、さわやかさを持った、良い作品だった。