絵本 「ぬすみ聞き」

ぬすみ聞き―運命に耳をすまして

ぬすみ聞き―運命に耳をすまして

  • 作者: グロリアウィーラン,マイクベニー,Whelan Gloria,Mike Benny,もりうちすみこ
  • 出版社/メーカー: 光村教育図書
  • 発売日: 2010/06/01
  • メディア: 大型本
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南北戦争の少し前の時代の、黒人奴隷の一家が主人公の物語の絵本。


当時は、肝心なことは何も主人が知らせてくれず、突然親と子が引き離されて売られたりすることがあったので、黒人の子どもたちは日が沈んだ後、主人の家の近くの木蔭に隠れて、そっと主人の一家の会話をぬすみ聞きし、大事なニュースをみんなに伝えたそうである。


この絵本は、黒人の少女が、家族のために夜にぬすみ聞きをする様子が描かれる。
しかし、その少女はとても明るくて、家族のために自分の役割をきちんと果たしながら、主人の家から聞こえてくるピアノの音色にうっとりしたり、主人の家の娘が暗記しようと朗読している詩を聞いて自分も暗唱したりする。


そして、この絵本で印象的なのは、主人公の少女が、ぬすみ聞きをしながら、少しも白人の主人の家族をねたんだり憎んだりせず、ただ物事をあるがままに受けと、いたって明るく生きて、自分にできる自分が向上するための努力をし、かついつの日か自由になれる希望を失わないでいるところだと思う。


主人公の少女のお父さんも逞しく、時には一日に二百キロも綿を収穫するような重労働をしながらも、決して誰かを憎んだりもせず、まっとうに生きている。
時には、林の中で、黒人の人たちは集まって、みんなでいつかモーゼがイスラエルを奴隷のくびきから解放したように、自分たちも自由になれるようにと祈りの歌をうたう。


そして、ついに、白人の主人たちが、「リンカーンが大統領になった」ということを憤慨し、なんとか奴隷制を維持しようと話し合っているのを聞き、少女がそれを家族に伝えると、お父さんたちは喜び、やっと自分たちのモーゼがやって来る、これからこそますます正確な情報が必要だが、希望が見えてきた、というところで終る。


奴隷のつらい境遇にありながら、いかに黒人の人々が耳を澄まして世の出来事や何かためになることを学ぼうとしていたか、淡々とした描き方であればこそ、とても胸を打つ形で描かれていた。


危険を冒してぬすみ聞きをすることもなく、気軽にあらゆる情報を手に入れられる現代は、その点ではなんと恵まれたことだろう。
だが、彼らほど切実に、自分たちの運命に耳を澄まし、わずかなものからも無限のよろこびや心の向上を求めようとする姿勢を私たちが持っているかは、かなり省みられることだと、この絵本を読みながら思った。