絵本 「おりづるの旅」

おりづるの旅-さだこの祈りをのせて (PHPにこにこえほん)

おりづるの旅-さだこの祈りをのせて (PHPにこにこえほん)


これはすばらしい絵本だった。
思わず涙を禁じ得なかった。


広島の原爆投下の九年後、原爆による影響のために病気で亡くなった佐々木禎子さんが、ずっと折りつづけていた折鶴。
その思いを継いで、同級生の子どもたちが広島の平和祈念公園の中に「原爆の子の像」という折鶴を掲げた少女の像をつくったのは有名な話で、私も聞きかじったことがあるし、その像も広島で見たような記憶がある。


この絵本は、その続きの物語も描いてあり、モンゴルにこの物語が伝わり、「ヒロシマの少女のおりづる」という歌がモンゴルでつくられ、広く静かに浸透していき、モンゴル中がその歌をうたようになったそうである。


また、アメリカでも、この物語が徐々に伝わり、1990年、南部のニューメキシコ州にあるアルバカーキ市という町の小学校で、ある先生がその物語を伝えると、子どもたちが話し合い、隣のロスアラモスに平和を祈るための像をつくろうという話になったそうである。


ロスアラモスは、原爆が開発された軍需産業の町。
当然、猛反対が起きた。


子どもたちはそれでもめげずに、募金や賛同の声を集める運動を続け、五年後、場所はロスアラモスではなかったものの、アルバカーキ市の美術館に「子ども平和像」をつくりあげたそうである。


ささやかな折鶴は、一見無力なように見えて、決して無力ではなく、静かに世界中にその心が伝わり続けている。


そのことに深い感動を覚える。


この世界が破局を避けるためには、そのような小さな、微力だけれど無力じゃないことの積み重ねしかないし、それこそが本当に大きな力だと、あらためて教わる絵本だった。