- 作者: 庄野英二
- 出版社/メーカー: 偕成社
- 発売日: 1983/05
- メディア: 単行本
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戦時中に本当にあった御話が元になって描かれたそうである。
木曽の御嶽のふもとの開田村に、松虫草の花が一面に咲くころ。
中村さんの家に、一頭の仔馬が生まれた。
中村さんはその馬に「松虫号」と名前をつけて、とてもかわいがり、松虫号は甘いものが好きだったので、おはぎや五平もちをよく食べさせてあげたそうである。
しかし、日中戦争が始まると、強制的に松虫号は軍用馬として徴用されて軍に連れて行かれてしまった。
中村さん自身も、それからしばらくしてから徴兵されて、中国に行き、石家荘というところを守る任務についた。
ある日、遠くから別の部隊が作戦のために一時的に石家荘にやって来て、休憩した。
中村さんは、その部隊の馬を眺めていたら、ある一頭の馬が、中村さんが目の前を通る時に、大きな声でいななき、うなりごえをあげた。
なんと、松虫号だった。
中村さんは、感動の再会によろこび、大福もちをたくさん買って食べさせてあげた。
その晩は消灯ラッパが鳴るまで、一緒にいて松虫号をさすりつづけてあげたそうである。
何十万頭もいる軍馬の中で、広い大陸で、めぐりあうのは本当に奇跡のようなものだったろう。
それから時が経ち、中村さんは戦争が終わった後に生きて日本に帰ることができた。
しかし、松虫号は帰ってこなかった。
毎年、お盆になると、開田村にある馬頭観音の石仏には、松虫草の花がたくさん、そしておはぎや大福もちがおそなえされる。
というところで、この絵本は終わっていた。
マイケル・モーパーゴの『戦火の馬』はスピルバーグによって映像化され、多くの人を感動させた。
あの作品も、人間と馬の友情を、第一次大戦を背景に描いていた。
日本にも、同様の話があったのだなぁ。
戦争は、人間だけでなく、馬などの、他の多くの生きものにも多大な苦しみと悲しみを与えたことを、私たちは忘れてはならない。
『戦火の馬』やこの作品を読むと、しみじみそのことを考えさせられる。